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2017年1月16日 

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機関投資家の「変身」で株主総会が変わる

磯山 友幸
経済ジャーナリスト

 2017年の株主総会の様相が大きく変わりそうだ。長年、大株主として経営者に「白紙委任」を続けてきた日本の生命保険会社や信託銀行など、機関投資家がモノ言う株主に変身しそうなのだ。機関投資家のあるべき姿を示す行動指針である「スチュワードシップ・コード」の改訂に金融庁が乗り出しているからだ。

 見直しの方向性を議論していた金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(座長・池尾和人慶應義塾大学経済学部教授)が2016年11月30日に「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた『建設的な対話』の充実のために~」と題する報告書をまとめた。これを受けてコードの改訂が行われるが、その内容はこの報告書に記された項目が尊重されることになりそうだ。

 報告書が求めている1点目は「運用機関のガバナンスの強化」。生命保険の契約者や年金加入者などの、「最終受益者」の利益の確保や利益相反防止のために、取締役会のあり方や議決権行使を決定する委員会などのガバナンス体制の整備を求めている。特に、報告書が問題視しているのが、メガバンクなど金融グループに属する運用会社の独立性。「親会社等の利益と運用機関の顧客の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケースが多く」あると厳しく指摘している。

 例えば、親会社の銀行が融資してメーンバンクとなっている会社の株式を運用対象として子会社の運用会社が保有している場合、メーンバンクとしての関係を重視するあまり、経営者が総会に出した議案に無条件に賛成するのは問題だというわけだ。きちんと運用受託している最終受益者の利益にかなっているかどうかを判断すべきだというのである。

 また、考えられる利益相反についてそれを回避する具体的な方針を決め、公表せよとしている。例えば、投資先企業に対して、当該運用機関のグループ会社などが金融商品やサービスを提供している場合などを想定している。

 さらに、運用機関が議決権行使をした結果を公表するように求めている。これまでも生命保険会社などは議案の主な種類ごとに整理・集計した行使結果の概略を公表しているが、報告書では「最終受益者への説明責任を果たし、透明性を向上させていくためには、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要である」と明記した。

 この報告を受けて、機関投資家が対応に動き始めるのは自明である。

 金融庁は監督官庁で、これまで箸の上げ下ろしまで指導されてきた。スチュワードシップ・コードや報告書はあくまで指針にすぎず、法令で定められた「義務」ではないが、監督官庁の指導に従うことが当たり前のこととして身についている業界だけに、金融庁の意向を忖度して動くことになりそうだ。

 スチュワードシップ・コードは、コーポレートガバナンスの強化を掲げる安倍内閣の方針として2014年春に導入された。政治主導だったため、当初、金融庁は「コードは義務ではないので従来と対応を変える必要はない」と説明してきた。ところが、2015年春にはやはり政治主導でコーポレートガバナンス・コードが導入されたこともあり、ガバナンスの強化が大きな流れになった。このため、機関投資家もスチュワードシップ・コードを無視できなくなった。金融庁も2015年に森信親・金融庁長官体制となると、一段と本腰を入れ、両コードを深化させる方針を掲げ、フォローアップ会議で議論されてきた。

 議決権行使の個別開示が始まれば、機関投資家は最終受益者に説明がつくような形の議決権行使しかできなくなる。会社側提案だからといって、それだけで賛成に回ることが難しくなる。特に既存の株主に大きな影響を与える増資や、ガバナンス体制を決定づける経営トップの選任については、説明責任が不可欠になるだろう。

 こうした機関投資家の「変身」を受けて、企業経営者も株主や投資家を向いた経営が一段と求められることになる。投資家に対して論理的に説明がつかない経営判断などは、大株主から反対される可能性が高まりそうだ。

2017年1月16日

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