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2016年の時代状況を映した
「シン・ゴジラ」と「君の名は。」の
ヒットと東宝の好業績

久原 正治

久留米大学理事

 オックスフォード英語辞典(OED)は、2016年を象徴する「今年の単語(ワード・オブ・ザ・イヤー)」に、形容詞「post-truth」を選んだことが、11月16日発表になった。2015年は和製英語の「emoji(絵文字)」が選ばれ話題になったことは記憶に新しい。post-truthとは、「客観的事実よりも、感情や個人的信念に訴えるものが影響力を持つ状況」のことで、英国のEU離脱や米大統領選におけるトランプの勝利に見られるような、客観的な事実ではなく大衆が感情的政治判断を優先する事象を説明するのに、「post-truth politics」といった表現でメディア等に盛んに使われた(朝日新聞デジタル2016年11月17日)。

 さて、2016年の日本の映画界では、東宝が総力を挙げこの夏封切られ現在もまだ上映中の、「君の名は。」(東宝主導の製作委員会製作東宝配給、製作総指揮古澤佳寛38歳、監督新海誠43歳)と「シン・ゴジラ」(東宝製作配給、製作総指揮山内章弘47歳、監督庵野秀明56歳)が大ヒットし、12月5日現在で、それぞれ歴代5位の200億円、歴代61位の80億円の興行収入を上げている(「CINEMAランキング通信」調べ、歴代1位「千と千尋の神隠し」308億円、2位「タイタニック」262億円、3位「アナと雪の女王」254億円)。このまま行けば、「君の名は。」はベスト3位(邦画では2位)に入る可能性が高い。この本業の映画部門の好調で東宝株式会社は2017年決算で当期利益330億円と2016年度比30%の増益達成見込みで、この数年で最高の業績となる見込みである(会社四季報)。

 実は、東宝はシネマコンプレックスの若者離れに悩んでいた。筆者が2016年3月まで教授を勤めた昭和女子大の現代ビジネス研究所にも3年前東宝本社から電話がかかり、映画館への若者ひきつけ策に女子大生の意見を聞きたいというので、7~8名の学生を引率して日比谷の東宝本社に行き、企画担当の若手と女子大生たちが若者の映画人気回復策を議論したことを思い出す。そもそも映画がヒットするかどうかはギャンブルのようなもので、リスクを避けるため多くの映画が製作委員会方式で配給会社とテレビや広告会社、出版、商社などが組んでリスク分散し、当たり外れの少ない大スターを起用して製作されている。今回のヒット2作は東宝が(「君の名は。」は製作委員会方式だが東宝主導)才能溢れ個性豊かなプロデューサーや監督を起用して満を持して製作配給に臨んだもので、「君の名は。」は10~20代の若者、「シン・ゴジラ」は現役の若手ビジネス世代を中心に幅広い層にヒットし、2016年の大きな話題となった。

 ヒット映画は時代の状況を映すものである。この二つの映画ともに、2016年の流行語「post-truth」の時代風潮が反映されている。「シン・ゴジラ」の東京破壊も、「君の名は。」の主人公男女二人の入れ替わりも、客観的事実ではなく、大衆の願望の象徴的なものとなっているようだ。日本の大衆は、自らが失ったものや実現できなかったことを空想しつつ、この政治的にも経済的にも行き詰まった感のある国が、ゴジラにより蹂躙されるのをある意味待ち望んでいる面があるし、「君の名は。」の若い男女二人の入れ替わりのように自分が抜け出せない都会の生活や田舎での生活の日常から脱出したいと望んでいる。そのような現代日本の幅広い世代の要請にこの二つの映画はうまく応えているのではなかろうか。その上で、映画の中に日本的な組織や地域の特徴を浮き彫りにすることで、映画としての魅力を増している。

 最後に、その日本的な特徴については、この夏同時期に封切られた相似形の米国映画の「ターザンREBORN」「ジャングル・ブック」と比べてみるとさらに良く分かる。「ゴジラ」と「ターザン」の二つのシリーズ(リメイク)映画の新作は、日本とアメリカの組織の意思決定を考えるのに良い材料を提供してくれる。具体的には「シン・ゴジラ」では、そこにゴジラによる破壊という危機が眼前に生じているにもかかわらず、日本政府は延々とああでもないこうでもない、ゴジラに適用される法律は害虫駆除法なのか、などと決定できない会議を集団で続ける。危機に即応できない日本政府を見て米国政府はいらいらしてミサイルを撃つと脅してくる。その混乱の中から、日本政府は最後にプロジェクトX型の各部門からエキスパートを集めた対策本部の集団の頑張りとチームワークで、凝固剤による対処法を生み出し、ゴジラを固定させてとりあえずの危機をしのぐ。しかし、ゴジラは固まったまま東京に残され、本質的解決は先送りされたことが示唆されている。一方の「ターザンREBORN」では英国貴族となったターザンの主人公とそれを助ける米国の南北戦争上がりの顧問の二人の個人が、危機に瀕するたびに自己責任で即座に銃を抜き敵を撃ち殺し、危機を乗り切っていく。周りはルールもないジャングルなので、自己の生存は自己責任で守る以外にはない。次に、「君の名は。」と「ジャングル・ブック」の二つの映像的に素晴らしい出来のアニメ映画では、集団(仲間)の中でのそこに生きる人のつながりを求める日本人の思考と、ジャングルのような現在を生き抜き将来を自己の力で切り開きリーダーシップを確立するアメリカ人の思考の対比がそこでも良く現れている。

  • shin-godzilla

    「シン・ゴジラ」

    脚本・総監督:庵野秀明
    製作・配給:東宝株式会社
    (C)2016 TOHO CO.,LTD.
    2016年7月29日 全国東宝系にてロードショー
    http://www.shin-godzilla.jp/

  • kiminonaha

    「君の名は。」

    原作・脚本・監督:新海誠
    製作:「君の名は。」製作委員会
    制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
    配給:東宝株式会社
    (C)2016「君の名は。」製作委員会
    大ヒット上映中
    http://www.kiminona.com/index.html

2016年12月15日

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