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「マイナス金利」下で求められる
“180度違う”財務戦略

磯山 友幸
経済ジャーナリスト
元日本経済新聞記者

 日本銀行が2016年2月に導入した「マイナス金利政策」の効果が徐々に出始めている。

 まず大きいのは金利の低下。6月下旬には国債の10年物の利回りがマイナス0.21%と過去最低を付け、住宅ローン金利も、三井住友信託銀行が10年固定の金利を0.5%に引き下げるなど、過去最低を更新し続けている。金利の低下に伴って住宅ローンの借り換えなどが急増している。

 マイナス金利の導入は言うまでもなく、金利低下によって貸し出しが増えたり、貯蓄から投資などに資金が回ることで、経済を活性化しようというのが狙いだ。実際、金利低下によって、新規の住宅ローンも増加傾向になっている。また、不動産投資などにも資金が回り始めている模様で、都市部を中心に不動産価格も上昇する気配が出始めている。

 焦点は、日銀が今後も「本気で」マイナス金利政策を進めるかどうか。現状は正確には「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」と言っているもので、まだまだ本気ではない。

 日本銀行に預けられている当座預金は250兆円あまりあるが、このうち「マイナス0.1%」のマイナス金利が適用されているのは10兆円ほどとみられ、大半の210兆円には今でもプラス0.1%の金利が付いているのだ。

 世の中の企業などが市中銀行の当座預金に資金を預けても、金利はゼロだが、銀行はそのおカネを日銀に持っていくだけで0.1%のサヤを抜ける状態が続いているのだ。

 日銀が本気になれば、この0.1%のプラス部分をゼロにしたりマイナスにすることも可能だ。ちなみに日銀の当座預金に0.1%の金利が付くようになったのは2008年のリーマンショック後のことで、昔から続いてきたわけではない。

 というわけで、日銀が本気で「マイナス金利政策」を実行に移せば、さらに大きなインパクトが生じる。市中銀行が企業から預かっている当座預金に「マイナス金利」が付くことになるかもしれない。そうなれば、企業の財務戦略も大きく変わらざるを得なくなる。

 金利がマイナスになる中で、考えるべきことは、資本(エクイティ)と負債(デット)のコストとの比較だ。ここ数年の株主還元重視の流れの中で、配当が大きく増えたこともあり、資本コストが相対的に上昇している。負債を超低金利で調達できる環境の中で、低利で長期の社債を発行する一方で、自社株消却して資本を小さくするのは順当な財務戦略だろう。

 自社株消却すれば、市場に流通する株式が減るわけだから、結果的にその他の株主の持ち分を増やすことにつながり、株主還元としての意味もある。自社株を消却すれば株価上昇にも結び付く。自社株買いは2015年度には初めて5兆円を突破し、8年ぶりに過去最高を更新した。こうした流れにマイナス金利が一段と拍車をかけることになるだろう。

 安倍晋三内閣はここ数年、日本企業のコーポレートガバナンス改革に力を入れてきた。2014年6月の成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」では、日本企業のROE(株主資本利益率)を国際水準並みに引き上げるとした。自社株消却は資本を小さくするので、利益水準が変わらなくてもROEを高めることになる。企業のROEが高まれば、再び海外投資家が投資対象として魅力を感じ始めるようになるだろう。

 ただ、注意しなければいけないのは、「マイナス金利」は金融市場が異常な状態であることの裏返しでもある。英国の国民投票でEU離脱が決まった際には、為替市場で相場が乱高下し、ドル資金が調達しにくい状況に陥った。資本を小さくするといっても、その一方で、緊急時に備えて流動性はきちんと確保できる体制を取っておくべきだ。

 仮に資金を置いておく当座預金に口座管理料などが設定される事態が起きたとしても、それは流動性を担保しておくための保険料と割り切ることが必要になるかもしれない。もっともイザという時にその銀行がきちんと流動性を供給してくれるかどうか、今以上に金融機関のリスクも見極めなければならなくなるだろう。

 金利がマイナスになるということは、財務の常識と180度違った行動が求められるということだ。マイナス金利で、財務マンの腕の見せ場がやってくる。

2016年7月15日

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