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グループ利益の3分の2は海外たばこ事業から

 M&Aは目的ではなく手段であり、重要なことはM&Aの後、いかに経営していくかである。そのことは、ここにお集まりの方々が日々実感されていることであろうと思う。本日は、JTの海外たばこ事業についてお話していきたい。

 JTは1994年の株式上場以来、「お客様を中心として、株主、従業員、社会の四者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、四者の満足度を高めていく」ことを経営理念に置いて、中長期の持続的な成長といった視点からの事業投資を心掛けてきた。

 財務実績は、2014年12月期の売上収益2兆4,335億円、調整後営業利益6,601億円、営業利益5,700億円。グループ全体の売上収益の55%、調整後営業利益の68%が海外たばこ事業からの貢献である。海外たばこ事業を担うJTインターナショナル(以下JTI)の利益(EBITDA)は、99年のRJRI買収以降2014年まで、ドルベースで加重平均20%余りの成長で推移している。

時間を買う、二度の買収

 我々のグローバル化の特徴は、第一に「時間を買う、二度の大規模買収による成長」にあると言える。RJRインターナショナル(以下RJRI)とギャラハー買収以前の98年、我々は世界第4位のシガレットメーカーであったが、ほとんどが国内事業であり、グローバル企業とは言えない状況だった。二度の買収によってグローバルな企業として世界3位となり、やっと上位2社の背中が見えてきた状態にある。

 99年のRJRI買収(9,400億円)によって、我々は海外たばこ事業のプラットフォームを獲得した。ただし、RJRIの親会社であるRJRナビスコは88年にプライベートエクイティで有名なKKR社にLBOで買収されており、投資不足に陥っていた。買収後は事業再生が急務であり、RJRIとの統合計画の本質は事業再生にあった。

 利益が上向き始めた2003年の終わり、二つ目のギャラハー買収の検討に取り掛かった。2兆2,500億円という身の引き締まるような金額の買収には、世界中で競合していたJTI(旧RJRI)とギャラハーとの、世界各国マーケットでの統合という重い負荷が課されたものだった。この買収によって我々なりのスタイルを身につけ、2009年以降、世界各国で毎年のように買収を継続してきた。

日本人に過度に依存しないグローバル化

 こうした経緯を経てグローバル化を進めた結果、マルチナショナルで多様性に富んだ組織となった。スイスのジュネーブにあるJTIの世界本社では、70カ国以上の多国籍の社員が働き、役員は11カ国の異なる国籍を有する17名で構成されている。日本人はDeputy CEOとR&D担当の二人だけである。世界各国に364のオフィスと30の工場、8つの研究所を有し、100カ国以上の国籍で構成される2万6,000人の社員が働いている。JTからの出向者は190人。うち5分の2は即戦力を望まれた人財で(残りは研修)、日本人以外の人と同様に働いている。

 多様なマーケットでビジネスを行うには日本人だけで対処することは不可能であり、グローバルに戦うには自ら多様性を求めなければならない。日本人に過度に依存しないグローバル化は、日本人だけでは人財が不足する中での戦略、つまり「人財貧者の戦略」でもあった。

 ギャラハー買収の目的は、①「地理的拡大、規模の拡大」、②「相互補完性」、③「技術・流通インフラ強化」そして、④「有能な人財の獲得」にあった。当時、幸いにもRJRIの事業再生が軌道に乗り、人財はいくら採用しても足りなかった。そんな状況下でのギャラハー買収は、一挙に有能な人財を獲得する絶好のチャンスでもあったのだ。

買収作業のポイントは主体性にあり

 買収で重要なことは、買収する会社自らが主体的に買収を検討して作業を実施することにあると私は考えている。そのために、いの一番にやらなければならないことが、「買収目的の明確化」である。買収を指示するトップマネジメントが、「なぜこの買収を行うのか」という明確な目的を頭の中に置くことができなければ、その買収は後でかなり苦労することになるだろう。二つ目は、選択基準を定めて対象企業を自ら選択すること。買収目的に基づいて、事業体の買収後の姿(買収後経営の青写真)を何度もシミュレートしていく。買収検討も買収作業も、投資銀行やアドバイザー任せにすることなく、主体的に行っていかねばならない。本業での買収であれば、投資銀行等よりも自社がいちばん詳しいはずであるし、そうでなければ買収してはならない。

 我々はギャラハーの買収検討を、2003年から2006年12月の発表までの3年間かけて行った。当初は複数のターゲット会社を対象に、四半期ごとに情報をアップデートしながら、「いま統合したらどのような事業体になるか」という検討を重ねた。

 買収のプロセスの中では思い通りにいかないことが出てくる。例えば、デューデリジェンスを行って、思いもよらない事態に遭遇することがある。また、買収交渉ではつねにベストの条件がとれるわけではない。ときには買収から撤退しなければならない局面すらあり得る。さらに、国によっては独占禁止法の制約によって、統合を諦めなければならないことも起こり得る。本当にこの買収のプロセスを続けていいのか――それを、自問自答しなければならない大きなポイントが必ずやってくる。そのとき、常に立ち戻る先。それが、「買収の目的」だ。

企業価値算定――買収後の統合マーケットのつぶさな検討

 買収作業の中で企業価値算定(買収価格算定)は、極めて重要だ。ギャラハーはロンドン市場に上場していたため、買収プレミアムを払って株を集めた。プレミアムを支払うということは割高なものを買うということだ。割高にしているプレミアムを凌ぐ買収シナジーがあることをしっかりと見極めなければならなかった。過去の類似のディールを参考にして算出したような数字に依拠するわけにはいかない。我々は、買収後統合していくマーケット一つひとつをつぶさに検討していった。

 この統合では、買収後統合していくマーケットが世界中にあった。その主要なマーケット一つひとつを、どのように統合していくか。両社が所有しているどの工場を残して、どの工場を閉じるか。個々のマーケットでは本社所在地が異なる場合、どうするか。実際、我々はイタリアではミラノに本店を持っていたが、ギャラハーはローマに本店を置いていた。買収交渉を始める前に、統合後の本店所在地をどちらにするかを決めておかなければ、価格算定に影響が出る。諸々の膨大な量の資料をもとに詳細な検討を重ねて、シナジーを出す前の単独の価値とシナジーを加味した価値を積み上げて計算していった。

 この作業は、後に極めて重要な意味を持つこととなった。英国の上場企業の取締役会の関心事は、価格とディール成就の蓋然性にある。中でも競争法(日本の独禁法)の制約をどこまで契約条件に入れるかは、交渉の一つの焦点となった。EUを1カ国として見た場合でも、10カ国の競争法のクリアランスが必要だった。ロシアの競争法のクリアランスを待たずクロージングする契約にしたいという話になったとき、詳細な企業価値算定がものをいった。万が一、ロシアの競争法がクリアランスできなかった場合、資産の一部ないし全部を売却することになる。その場合、どの程度のダウンサイドがあるか。我々はすべて計算していた。交渉のテーブルについた私の頭の中にも、明確な数字が入っていた。そこからハードネゴが始まるのである。

 我々が作成した詳細なスプレッドシートは、買収後経営の青写真に基づいたものであった。各マーケットでのブランド配置から人員配置までの詳細な経営の青写真を作成して交渉に臨んだのだ。主要な各マーケットに人を派遣し、主要な都市の小売店を見て回りヒアリングして情報を集めて青写真を作っていった。ターゲット企業を徹底的に知るための買収後の経営の青写真づくりがJTからJTIへの大幅な権限委譲を可能とし、買収後の経営統合にも極めて重要な役割を果たした。

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統合のスピードアップのための二つの工夫

 ギャラハー買収は社内20人のプロジェクトであったが、買収の発表が行われたとたん「統合」という巨大なプロジェクトに変わり、2万3,000人の両社(ギャラハーとJTI)全社員が当事者となる。買収後の成果をもたらすのは、そこにいる一人一人の社員だ。統合作業する人材は天から降ってくるわけでも、地から湧いてくるわけでもない。日々の仕事をしている人々がその負荷も負うことになる。そのことを絶対に忘れてはならない。ここを間違えるとチャンスが一転ピンチと化し、競合他社の草刈り場になってしまう恐れがある。買収は、自社にとっての両刃の剣だ。

 チャンスをチャンスとして活かすには、不安定な時期をできるだけ短くする必要がある。RJRI買収では、買収完了から事業再生計画の完成までに8カ月を要した。その間、RJRIの社員・役員たちは、自分たちの将来がどうなるかわからないという不透明な状況に置かれ、不安な時間を過ごしていた。これは組織運営上大きな問題であり、「もっと早く統合計画をつくるべきだった」という教訓と反省は骨の髄まで沁み込んでいた。ギャラハー買収では、この貴重な教訓のもとに統合のスピードを加速するために大きく二つの工夫をした。

 一つ目に、JTからJTIへの大幅な権限委譲によって「JTI主体の統合」を行った。二つ目に、統合における10の基本原則を買収発表前から準備し、繰り返しコミュニケーションし、全社での遵守を徹底していった。

買収手続きと並行した面談実施

 買収を発表した2006年12月15日からクロージングの翌年4月18日までの間、買収手続きと独禁法・競争法手続きを進めながら、同時に統合の管理体制を確立した。統合計画策定準備のために、クロージング前から独禁法・競争法上の制約がない範囲において情報の共有も開始。2月末から3月初めにかけては、ギャラハーの執行取締役5名と将来有望と思われる人40数名をリストアップしてもらって面談を行った。JTIのCEO(当時)と私の二人が、それぞれ一対一で最低対象者一人一時間の時間をかけて、「この人に残ってもらうべきかどうか」「残ってもらうならどんな仕事をやってもらうか」を決めていった。フランス人のCEOからは、「欧米の企業は執行取締役は面談しても、他の四十数名までは面談しない」と言われたが、私にはある目論見があった。

 実は私はミドル層の人たちにもたくさん残ってほしかったのだ。トップ層に対してフェアなプロセスを経て残ってもらうことを決めることで、「しっかりとフェアに人品骨柄を見てくれる」というよい噂が流れることを期待したのだ。期待通りの効果を得て、ミドルマネジャーは予期していた以上に残ってくれた。3月半ばまでに役員クラスを決定した。その役員が部長クラスの面談を同様に行い、部長クラスまでのラインが確定した状態でクロージングを迎えることができた。

 クロージングの際は、JTIのCEO(当時)、同副CEOの私、同COO、そしてギャラハーのCEOの四人で、ロンドン(ギャラハーの拠点)、ウィーン、モスクワ、北アイルランド(ギャラハー発祥の地)、ジュネーブ(JTIの本社所在地)を4日間で飛び回って、買収の意図を説明して回った。最初にできるだけ不安を払しょくする意味でも、経営陣がショーアップすることの重要性をギャラハー買収から我々は学ぶことができた。

 こうしてクロージングから100日での統合計画策定が完了し、8月10日の統合計画発表に至ることができたのだった。

統合管理体制への円滑な移行

 「大きな買収は経営陣自らが有事を招くアクションである」と、私はよく申し上げている。有事と平時では経営陣の対処は異なる。平時はできるだけ現場に権限を委ね仕事をしてもらう。しかし、大規模災害時のような有事の際はそれでは絶対にうまくいかない。すべての情報を一元管理して、トップの指揮のもと優先順位をつけてアクションを起こす。大きな買収はそれと全く同様だ。トップマネジメント層が、自分の時間、労力、知力をコミットしなければ、買収は成就しない。

 統合管理体制は、通常とは異なる管理体制をとった。意思決定を行う主体である統合委員会に、統合事務局が決定してほしい事項を上程する。統合事務局には買収プロジェクトメンバーとビジネスプラン作りのプロを配置した。

 買収プロジェクトから統合管理体制への円滑な移行について、強調しておきたいのは買収プロジェクトメンバーを統合事務局の中核メンバーに起用したという点だ。買収作業をした人はデューデリジェンスを行い、買収後の経営の青写真を作成したメンバーであり、彼らは相手企業を誰よりも理解している。したがって、彼らを中心にしつつ、ビジネスプランづくりのプロを加えた混成チームで統合事務局を結成した。統合作業は日々の仕事と並行して行わなければならないので仕事の負荷が増す。そのため、買収プロジェクトメンバーには、「統合が終わるまであなたたちの仕事は終わらない」ということを最初に伝えておくことが肝要だ。

 さらに、工場の配置計画やある国の統合計画など具体的なタスクフォース50ほどが同時に走った。各タスクフォースの責任者には役員を置いて、「これは自分の仕事ではない」と言えないような状況をつくった。繰り返すようだが、普段の仕事に統合作業が加わるので、言い訳につながるような行動をとらないことが極めて重要になる。加えて言えば、統合計画をコンサルタントに丸投げしない、ということも私の得た教訓だ。どれほど美しい統合計画でも誰かに作ってもらったものでは、後で必ず言い訳のもとになる。

現場の管理職をバックアップする体制づくり

 将来に対する不透明感、不安感を極小化するために、きめ細かなコミュニケーションは欠かせない。統合における基本原則、統合管理体制、統合計画、組織、そして責任権限規定を伝えて共有すると同時に、現場の管理職をバックアップする体制づくりを整えた。

 現場に近くなるほど経験したことのない事態に直面する。問題は現場で起きる。人材のセレクション・プロセスを含むHRハンドブック、社内コミュニケーションハンドブックを作成して管理職を支援。文書だけでは十分に伝わらない点も必ずあるので、地域ごとに不明点を問い合わせる際の連絡先を決めて、ハンドブックの終わりには時差を考慮したグローバル三極での連絡先電話番号も付記した。

買収のタイミングの見定め

 買収で重要なことは、1+1を2以上にすることだ。そのためには、統合作業の負荷を飲み込むだけの勢いが自社にあるかどうかの見極めが重要となる。大型買収に逆転満塁サヨナラホームランはない。なぜなら、勢いや体力が落ちている会社に大型買収といった劇薬を投与すると死んでしまうからだ。自分たちのチャンスを確実にチャンスとするためには、その見極めが極めて重要になることを心しておきたい。

買収・統合におけるCFOの役割

 CFOは経営者であり、財務面でのCEOのブレインだ。資本市場、金融市場といったステークホルダーに対する大使であり、財務機能のリーダーである。財務機能のリーダーとして、M&Aも含めて人を通じて成果を上げる。もっと言えば、人を通じてしか成果は上がらない。そのことを肝に銘じて、自分の仕事を設計する。そうしたCFOにならなければならない。ギャラハー買収当時、自分に対してもそう言い聞かせていた。

 買収統合でのCFOの役割について、ギャラハー買収の経験を振り返れば、なんといっても買収後経営の青写真づくりをハンズオンで行ったことが挙げられる。青写真づくりの延長線上に何があるかを展望したからだ。交渉のためにも、権限委譲のためにも買収後の詳細な青写真が必要であったのは述べてきたとおりだ。

 買収後の格付けを予測しながらの投資余力の分析、買収後のファイナンススキームや税務ストラクチャーづくり、買収後経営の青写真に基づいてリスクファクターを重点的に見ながらのデューデリジェンス、買収交渉のリード役、アドバイザーのリードなど買収作業でCFOが果たしていく役割は大きい。

 そして、CFOは統合作業の要でもある。統合作業の一つひとつがすべて財務の成果、指標に反映されるからだ。

 買収の成功とは、所期の目的を果たしてプレミアムを超えるシナジーを出すことである。人を通じて統合の果実を実らせるために、本日の話が少しでもお役に立てば幸いである。

 本日はご清聴ありがとうございました。

※本稿は、2015年11月17日開催のグローバルM&Aフォーラム 「M&A部会拡大会」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2016年2月15日

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