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コーポレートガバナンスと
企業年金の資産運用

森本 紀行

HCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

 コーポレートガバナンスの目的は、中長期的な企業価値の向上を実現することである。企業価値の向上は、経営者と全ステークホルダーとの間の共通利益であるから、そこには双方の相互責任があり、一定の協働が求められる。

 株主は、資金供給者として調達資金の使途を経営判断に委ねる一方で、その判断の結果の責任については、全面的に受け入れるほかない立場にある。故に、他のステークホルダーから区別され、経営者の株主に対する責任が特別に強調される。

 しかし、株主と経営者は対立するものではなく、共通利益である企業価値の向上において双方が応分に責任を負うものであるから、株主は資金供給者として、資金調達者である経営者との間で適切な距離を保ち、対等な立場で建設的な対話ができる資質と能力を備えなければならないのである。

 株主といっても、多様なものがある。コーポレートガバナンスとの関係でいえば、企業経営との間に特別な関係を有する株主が問題なのである。いうまでもなく、緊張感を欠いた特別な関係性のなかでは、株主と経営者との間に、現状維持を肯定する停滞的な無対話こそあれ、革新を促すような創造的な対話は起きにくくなるからだ。

 そういう意味で、コーポレートガバナンス・コードのなかで「いわゆる政策保有株式」に関する原則が置かれたのは、当然極まりないことだった。しかし、企業が保有する株式としては、政策保有株式のほかに自社の企業年金を通じて保有しているものもある。

企業年金資産の管理

 企業年金の資産は、規約型企業年金の場合は、企業自身によって直接に保有され、基金型企業年金の場合は、企業年金基金という独立した法人を通じて、間接的に保有されているのだが、「確定給付企業年金法」により、企業の支配が及ばないように、信託等の仕組みを通じて、完全に外部化されている。

 そして、その企業年金資産は、生命保険契約の締結、もしくは信託銀行と投資運用業者への運用委託契約の締結によって、運用を受託している金融機関の一任判断のもとで、管理運用されなくてはならないこととされている。

 しかし、企業年金を運用している金融機関と企業との間に、親密な関係がある場合は、事実上、政策保有と似たような弊害があり得る。この問題点については、「確定給付企業年金法」のなかで、規約型企業年金においては、企業が直接に年金制度の受益者(現役の従業員と退職して年金を受給している人)に対して、また、基金型企業年金においては、基金の理事が基金に対して、それぞれ忠実義務を負うようにすることで、対応されている。

忠実義務違反のおそれ

 具体的に、どのような行為が忠実義務違反のおそれを生じさせるかについては、「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドラインについて」という2002年3月29日付の厚生労働省年金局長通知に記述がある。例えば、以下のような事態だ。

 「事業主又は基金型事業主と運用受託機関(運用受託機関と緊密な資本又は人的関係のある会社を含む。)との間に緊密な資本関係、取引関係又は人的関係がある場合において、事業主自らが当該運用受託機関との間で資産管理運用契約を締結すること、又は基金型事業主が基金をして当該運用受託機関との間で基金資産運用契約を締結させること」

 しかし、利益相反のおそれが利益相反の事実となるためには、運用機関の選択に際して、母体企業の親密先だという理由以外に合理的な理由がない、不当に運用機関に有利な契約になっているなどの事実の立証が必要とされている。ところが、現実にはそのような立証は不可能だから、利益相反があると考えるのが自然であるような状況が蔓延しているのだ。それが日本の企業年金の実態である。

コーポレートガバナンス・コードからの視点

 この問題、別の視点から考えて、少なくとも上場企業においては、コーポレートガバナンス・コードでの対応により是正できるのではないか。なぜなら、その第二章は「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」と題されているが、企業年金の受益者こそステークホルダーの代表的なものというべきだからである。

 「原則2-2」には、「上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである」とあるが、この原則のもと、企業年金の受益者というステークホルダーについて「その利益の尊重」のための行動準則を、全ての上場企業が定めるべきなのだ。

フィデューシャリー・デューティーからの視点

 また、金融機関が、大口債権者としての地位や大株主としての地位を利用して、企業年金の運用受託を図ろうとすることは、優越的な地位の濫用として認められないし、企業年金資産の運用について金融機関の忠実義務を定めている「確定給付企業年金法」の趣旨からも、認められない。ところが、事実としてこうした金融機関の行動が横行していることは、金融規制の立場からも大きな問題である。

 故に、金融庁はこの実態に鋭くメスを入れようとしている。具体的には、資産運用に携わる幅広い金融機関について、フィデューシャリー・デューティーという概念を導入したのだ。フィデューシャリー・デューティーは英米法の概念だが、日本法に置き換えれば、履行強制力のある忠実義務である。

 実際に米国では、企業年金の管理についてフィデューシャリー・デューティーを具体化した特別法が作られていて、企業と金融機関に重い責任が課せられているので、日本の企業年金にみられるような利益相反のおそれの蔓延は、法律上あり得ないのである。

 日本の場合は、少なくとも現時点では、フィデューシャリー・デューティーは、金融機関の責任に限り、また、直接に法令の基づかないものとして導入されている。ただし、具体的な行動規範であると考えられているので、ちょうどコーポレートガバナンス・コードのようなものとして、金融機関の資産運用関連業務を律するように機能していくのだと考えられる。

好循環の実現

 フィデューシャリー・デューティーのもとでは、金融機関は、大口債権者としての地位や大株主としての地位を利用して、企業年金の運用受託を図ることができなくなる。また、コーポレートガバナンス・コードで律された企業経営者にとっては、企業年金の受益者の利益の尊重は重大な責務となる。

 こうして、コーポレートガバナンス・コードで律された企業経営者と、フィデューシャリー・デューティーで律された金融機関の二つが揃ってはじめて、企業年金のガバナンス改革が実現され、優れた投資家としての企業年金が生まれる。

 高度なガバナンスのもとにある企業年金は、コーポレートガバナンス・コードを通じて企業のガバナンス改革を加速させ、そのことが、さらに企業年金の健全なる発展を促す。これぞ、安倍政権の掲げる政策課題である好循環の実現の見本である。

2016年2月15日

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