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日米電機産業の盛衰
─日本では衰退産業の中からなぜ新たな企業が興隆しないのか?

久原 正治

昭和女子大学現代ビジネス研究所長

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    ①Strategy Rules: Five Timeless Lessons from Bill Gates, Andy Grove, and Steve Jobs

    David B. Yoffie & Michael A. Cusumano
    HarperBusiness, April, 2015

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    ②日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ

    湯之上 隆
    文藝春秋 2013年10月

 日本の経済成長を支えた総合電機産業は衰退の一路を辿っている。私は1972年から98年まで長銀に勤務し、我が国銀行業の一時的な成功と衰退を体験し、その後大学で経営学を教えている。そこで使う米国直輸入の教科書によれば、急激な環境変化の中であらゆる産業がダイナミックに変化し、その中で衰退する企業がある一方で、そこから必ず新しい企業が生まれるとされる。日本で同様の新陳代謝がなぜ起きにくいのか、それは大企業のサラリーマン経営者による過去の成功体験に過剰に依拠した内向き経営と環境変化への無作為、低収益を容認するシェアと売上高第一の横並び的多角化経営、それを可能にした政府の戦略なき産業保護政策と銀行による衰退企業への継続支援だと私は考えている。

 ①は、ハイテク企業戦略論の権威のヨフィー・ハーバードビジネススクール教授(長年インテルの社外取締役を務める)とクスマノMIT教授の最近の著書だ。そこでは、マイクロソフトのビル・ゲイツ、インテルのアンディ・グローブ、アップルのスティーブ・ジョブズの3人の優れたリーダーたちの、勝利の戦略の共通点と相違点が、長年の研究成果に基づき分かりやすく整理されている。それは日本企業の今後に何が必要かを考えるのに有用な基本的材料を提供しており、日本企業経営幹部の必読書ではないかと思う。翻訳が待たれる。

 著者達は成功のルールを次の5つにまとめている。失敗を振り返りながら先を見通す、致命的にはならない範囲で大きなリスクをとる、プラットフォームを支配しバリューチェーン全体にわたる収益構造を作り上げる、巨大な競争相手にも相手の力を利用して打ち負かす、個々の構成員の最強の部分をベースに組織を作り上げる、の5点だ。

 3人の創業経営者は強烈なスピードで変化するハイテクの世界の中で、時には経営危機に見舞われるような失敗も犯しながら、そこから学び、10年先を見据えて長期的な視点で競争に勝ち抜いていくための具体的な戦略を、強烈な意思で愚直なまでに実践してきた。いずれの企業も持続的に高い収益を達成してきたことは、彼らの戦略が正しかったことを証明している。創業者亡き後の3社ではこれまでのような順調な経営が続くか予断を許さないが、その間にも米国ではグーグル、 アマゾン、 フェイスブック等々ハイテクとサービス業を結合し業界を支配する新たな企業が次々に生まれてきている。

 これに対して、80年代一時はアップルやインテルを駆逐し、世界の半導体市場の80%を占め、テレビ市場を支配した日本の電機産業は今や見る影もない。

 ②は、日本の半導体産業とテレビ産業がなぜ国際競争に負け衰退していったかをわかりやすく描く。著者はその理由を、高コストで過剰品質の低収益構造、一時的成功体験による技術過信文化、市場での顧客の要求ではなく供給側の事情による新製品の開発、長期の環境変化を見ず全体最適ができず局所最適に走る戦略眼のなさ、戦略観のない政府の産業支援の5点にまとめている。そして、日本の半導体や電機産業の取るべき方策として、イノベーションを発明と市場の結合ととらえ新たな市場を創造し、価格支配力を持つ分野への集中を可能にする戦略眼を持ち、連続的に技術が変化しすり合わせ技術が要求される製造工程での強みを生かし、新興国市場に出て市場の要請を理解し、模倣を結合したイノベーションを生むことに徹することを勧めている。

 日本の大銀行や総合電機産業は、利益第一の短期的な視野に陥り、新たな市場を興すような企業文化も失せていっているようだ。優秀な人材がこれらの産業からスピンアウトし、Fintechなどのハイテクと金融の融合分野等で技術とサービスを結合した新しい企業を興していってほしいと私は考えている。

2015年12月15日

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