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アナリシス

アジア・新興国における資金調達環境の変化とその対応

木村 等

日本CFO協会主任研究委員

ジャパンプレミアムによる資金調達市場の逼迫

 米国の年内利上げ観測から新興国や資源国からの資金流出が進み、ドル高と邦銀のドル調達コストが上昇するなど、日系企業のドル調達コストが高くなりつつある。海外に円資金が大量に流出しているほか、日本国債の格付けが下がるなどのソブリンリスクが加わり、ジャパンプレミアムがつきはじめたのだ(注1)。M&Aをはじめ、潤沢な円資金が海外に行き場を求めている限り、このプレミアムは当分続きそうだ。今のところは上乗せ金利でおさまっているが、邦銀がドル資金を手当てできなくなる事態がまた来るのではないかと外銀の内々では囁かれているという。

 また、金融規制による影響も見逃せない。今年から適用が開始されたバーゼルⅢの流動性ガバレッジ比率による影響が出てきており、先行する米国で規制対象となった大手銀行では、保有資産の大半を現金と有価証券として貸出を抑える動きがある。また、貸出において大口預金が規制上マイナスに作用する関係で、一定以上の口座残高を保有する顧客に対して口座維持手数料を導入するとの報道や、日本の金融機関でも米国では大口預金を持つ企業に対応を求めたという話も聞こえてくる。コミットメントラインによる貸出も条件によっては規制上マイナスに影響するため、金融機関が条件の見直しを要求してくることも想定される。バーゼルⅢに関する規制は年ごとに厳しくなっていくので、企業の財務部門もグローバルに活躍する金融機関と連携し市場分析を行うことが欠かせないだろう。

(注1)2015年5月26日ロイター発信:対外投資に向かう日本勢がもたらす「円の供給過多」に対して、海外勢の「微弱な円需要」という不均衡等により発生している。

注目されるグループ・ファイナンスとサプライチェーン・ファイナンス

 こうした中、我が国の先進企業でグループ・ファイナンスへの取り組みに注目が集まり始めている。

 前の金融危機以降、アジア・パシフィック地域でビジネスを行っている多くの海外企業が、グループ・ファイナンスなど銀行融資以外の方法で運転資金を調達している一方で、日系企業の多くはファイナンス手段としてグループ内余剰資金の活用に注目はしているものの、国内に溢れている円資金を使った、より簡便な親子ローンや現地に進出している邦銀からの借入をメインに、資金調達を行っている。昨年、CFO協会が行ったアンケート結果でも、海外拠点での資金調達手段としては、銀行融資を挙げた企業が一番多かったが、アジア・パシフィック地域でビジネスを行っているグローバル企業の動向調査(注2)によると、「53%の企業が運転資本をグループ・ファイナンスの資金で調達している」と回答していることからも、その違いは明らかである。

 また、売掛債権、買掛債務を使ったファイナンスの実施・検討を行っている日本企業も、一昨年よりは増加していることはアンケート結果にも表れていた。特に買掛金の支払いに関するファイナンスでは、2割近い企業が実施あるいは検討していると回答しており、日系企業でも進んだ企業がグループ・ファイナンスに取り組み始めている。こうした日本の先進企業の動きは、公表されたニュースからも見て取れる。

(注2)バンクオブアメリカ・メリルリンチの調査報告「2015年アジア・パシフィック地域 トレジャリー・マネジメント・バロメーター」

・「花王、アジアで資金効率改善 300~400億円捻出」(日経新聞2015年6月4日)
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)に着目した記事だったが、サプライヤー・ファイナンスという手法で運転資金を確保した。

・「パナソニック、マレーシアで世界の資金を集中管理20兆円超」(日経新聞2015年7月23日)
世界各国の拠点でやりとりされている円・ドル・ユーロ資金の管理業務を、マレーシア拠点に一元化し、これまで地域各社の社内金融子会社が行っていた業務を集中させることで、業務の効率化・迅速化、リスク管理の高度化、人的リソースの有効活用を図る。

・「資金回収早め1300億円 日立が捻出、成長投資に」(日経新聞2015年9月13日)
日立も売掛金を減らすことで現金を捻出。

 その他、三菱重工は在庫などの流動資産を3,000億円圧縮、IHIは取引先との支払い条件の見直しにより2年での300~400億円を確保、神戸製鋼所グループは余剰資金を一元管理する仕組みを東南アジアで導入……など、日系企業のグループ・ファイナンスに関する具体的な動きが報じられている。

グループ・ファイナンスを取り巻く環境

 アジア新興国でビジネスを行う場合は国ごとにさまざまな規制があり、規制により動かせないお金(Trapped Cash)、あるいは慣習的に寝かせているお金(Idle Cash)の存在がグループ・ファイナンスによる運転資本の適正化の足かせとなるのだが、ここに来て各国の規制が少しずつ緩和され、運転資本の効率化を図る財務ソリューションを活用できる環境が整いつつある(図1参照)。

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 アジア・パシフィック地域でビジネスを行うグローバル企業のクロスボーダーの支払いにおいて、使用する通貨は当然米ドルが最も多いが、2番目に多いのは現地通貨である。これを念頭に、為替リスクの回避、手数料削減とキャッシュの一元的管理が図れる手法について見てみたい。

 直近の新興国現地通貨安の為替事情などを受けて、グローバル保有資金の通貨ポートフォリオの管理が重要性を増していることから、域内の子会社に為替リスクを負わせずに、シンガポールなどにある地域統括会社で為替リスクを集約し、一元的に管理することで為替リスク、手数料と事務コストの削減を図る動きがある。シンガポール、マレーシア、タイなどでは税制確認や中銀への申請が必要であるが、同一国内のグループ間で米ドルと現地通貨の両替が可能であり、各社が負担している両替コストが不要になる(図2)。

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期待されるサプライチェーン・ファイナンス

 リーマンショック以降、欧米ではグローバル企業を中心にサプライチェーン・ファイナンスという手法で社内外のキャッシュフローを担保にした資金調達を行っている。ほんの数年前まで、アジア地域での利用は規制の壁が複雑に絡んで使えないという認識であったが、ここ1~2年で大きく様変わりし、多数の国で使えるようになっている(図3)。

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 この調達手段の良いところは、この仕組みを導入するバイヤーの所在が適格所在国にあれば、サプライヤーの所在国がこの制度を認めていなくても、適用できる点だ。例えば、タイにある工場がこれを採用した場合、サプライヤーが韓国企業でも問題ないという。また三カ国貿易の形態であれ、集中購買の形態であれ、契約書と証拠となる書類があれば適用可能のようである。債権譲渡禁止特約なしが前提だろうが、「インボイスの買取り対象企業の信用リスクがクリアされれば、このファイナンスサービスを遂行する上で、さほど大きな問題ない」と外銀の責任者は語っている。

 この分野では、これまで外資系金融機関がグローバル企業とともに、アジアでこのビジネスを展開していた関係上、彼らに一日の長があるが、最近、日系メガ銀行もこの分野に着目し、サービスとして提供できるようになっている。筆者の仄聞するところでは、少なくともそのうちの1行は専用システムを構築し、実際にアジアでサービスを提供し始めている。

グループの資金調達力向上を目指して

 ところで、このように規制のハードルが下がり、ビジネスルールも整備され、システムを導入できたとしても、こうした環境をうまく使いこなすためには、運転資本に関わる情報(現預金、売掛・買掛金、売上、仕入れなど)をタイムリーかつ正しく収集できる仕組みや、取引先の一元的管理により信用リスク管理が行える環境整備と業務フローの統一化などを実現しておく必要がある。いずれにしても、グループ内のキャッシュの可視化を実現することが最初のステップであることは間違いない。また、特にサプライチェーン・ファイナンスについて言えば、サプライヤー側にどのようなメリットを提供できるかが大きな問題になるだろう。

 一般にサプライチェーン・ファイナンスを導入する目的に挙げられるのは、支払いサイトの延長、自社内の支払いコストの削減、優良ベンダーの囲い込みと取引条件の平準化による取引状況の改善だが、日系企業の場合、企業グループやそれに準ずる企業との取引関係を重視したビジネスを行っているため、「企業グループ全体での資金調達力の向上」が入ってくる。

 昨年のアンケートでも、買掛金でのファイナンスを考えていた企業の財務部長は「日本国内で広く使われている手形と同じことが海外で行えるだけでなく、バイヤー企業の信用力を使った金利での割引で債権の資金化ができるようになる」と前向きな姿勢であった。グループ・ファイナンスの活用として紹介した手法の利用範囲が、今は企業グループ内に留まっているが、これらを中堅企業の主要取引先まで広げれば、企業グループ全体の収益向上のみならず、より良い取引関係が構築できるようになると確信する。

 パイロットモデルを導入し、サプライヤー企業に声をかけている企業の方が懸念されていたのは、サプライヤーが日系の場合、金融機関が取るマージンを当該企業が受け入れるかどうかとのことであった(注3)。サプライヤーの売掛金回収に関わるコストのみならず、中国や多くの新興国で起きている不安定な為替制度やオンショア銀行からの不確実な資金回収とドル資金調達コストの上昇などを考えると、今後、この仕組みの導入メリットはサプライヤーにとっても大いにあると思われる。

(注3)割引コストが高くてペイしないので、外資系企業が導入するサプライチェーン・ファイナンスへの誘いを断った大手製造メーカもあった。

日本型の中央集権財務モデルの必要性

 ところで、アジア各国でのクロスボーダー取引には、為替が絡む場合は実需原則の規制がある。この実需原則の下でサプライチェーン・ファイナンスを行うには、貿易実需に基づく資金取引であることを証明する仕組みとその保証が必要になる。日本の優良グローバル企業もこのサービスを利用しているが、生い立ち的には欧米型の巨大グローバル企業向けの金融サービスであり、多くの日本の企業にとって必要な機能は、現在の欧米型優良グローバル企業向けサービスとは若干異なる(注4)。また、既に外銀が信用度合の高い優良グローバル企業を抑えたこのサービス分野で、日本の金融機関が各国の規制当局と調整したうえで、このサービスを傘下の中堅企業群まで含めた日系企業に提供していくのは大変であることは想像に難くない。

 日本固有の商習慣に基づいて構築されているものとしては、電子手形のシステムがある。既に、日本政府は電子手形システムのアセアン各国への拡大については数年来、各国の関係機関と意見を交換し、ビジネス実態の調査と制度改定への支援を行っており、制度とシステム導入の課題について十分掌握しているかと思われる。これをもう一歩進め、各国の政府との間で貿易資金と認めるための定型的なルール(当該システムでの認証ログを実需原則証明として使える)などの合意形成を行い、参加する金融機関で同一のサービスを企業に提供できるようにすれば、現在の取引銀行を利用してアジアにおけるクロスボーダー資金の調達力を格段に向上することができるようになるであろう。

 さらに、インボイスを束ねた債権を東京市場に上場できれば、東京にアジア各国通貨の巨大な流通市場が誕生する可能性もある。まさに東京市場の国際化であり、実現すれば日本企業にとっては、日本の本店でアジア圏すべての資金調達と短期運用が可能になる。夢のような話ではあるが、日本の企業群の強さ、すなわち優秀で数多い中堅企業群の強さを将来も生かすためには必要不可欠な仕組みで、この仕組みができて初めて日本型の中央集権財務モデルが完成すると考えられる。

(注4)日系グローバル企業の強みは、一部の突出した優良企業にあるのではなく、それを支える幅広い優秀な中堅企業群にあり、この優秀な中堅企業群に対して安定的にサービスを提供できる仕組みが必要だ。

2015年11月16日

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