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2015年11月16日 

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回転期間分析

末松 義章
千葉商科大学大学院
客員教授 博士

基本的考え方

 この分析は、資産や負債の大きさの妥当性をチェックするための方法である。企業が、資本を投下して購入した資産の大きさの妥当性と効率性をみるための分析手段であるとともに、資本の調達源泉である負債の大きさをみるための分析方法でもある。

 さらに、運転資金に関する回転期間分析を行えば、粉飾を見抜くことも可能となる。

回転期間分析に使われる主な比率

 具体的には、資産(または負債)の大きさは、売上高と密接な関係があるので、その資産(または負債)が平均月商(または平均仕入高)比何カ月分あるかをみて、その大きさの妥当性をチェックする。以下に主な指標を記す。

64_credit_risk_fig01

(注)貸借対照表の本文に記載されている受取手形は、通常手持手形を表しており、割引手形と裏書譲渡手形は、貸借対照表の脚注に別途表示されているケースが多くみられる。したがって、財務分析を行うためには、この割引手形と裏書譲渡手形を手持手形に加算することが必要となる。
 なお、前受金は商品を納入する以前に前もって入金した時に処理する勘定であるので、売掛債権の合計からこの前受金を差し引くことが必要となる。

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(注)仕入高が判明しない時は平均売上原価で計算のこと。裏書譲渡手形は、支払手形と同じ性質のものであるが、貸借対照表では脚注で表示されているため、仕入債務に加算する必要がある。
 なお、前渡金は商品を購入する以前に前もって支払った時に処理する勘定であるので、仕入債務の合計からこれを差し引くことが必要となる。

64_credit_risk_fig04

 次に、各回転期間について説明を加えていく。

売掛債権回転期間の意味と使い方

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 商売で、取引先に商品を納入すると、まず売掛金が計上されるが、しばらく経つと手形で受け取ることがある。手形で回収すると、そこから受取手形という勘定になる。この受取手形が最終的には取り立てられて、手形落ち、すなわち現金に変わるわけである。

 売掛債権回転期間というのは、商品を納入した時から手形が落ちるまでに平均何カ月かかるのか、ということを表している。

 ここでA(株)を例に、具体的にみてみる。

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 A(株)の第3期の売掛債権回転期間は6.03月で、「売掛金÷平均月商」で算出した売掛金回転期間は1.58月である。

 つまり、あくまでも平均値であるが、商品を納入してから手形を回収するまでに1.58月かかり、また、商品の納入から手形が落ちるまで(すなわち現金に変わるまで)が平均的に6.03月かかっているので、手形になってから現金になるまでは4.45月かかっていることを、この指標は表しているわけである。

 この関係をわかりやすく図示すると以下のようになる。

64_credit_risk_fig07

 常識的にいって6.03月は長いといえる。実際に、この指標の業界平均は4.36月となっている。

 同業他社のB社は4.42月であるから、A(株)とB社の差は1.61月となる。A(株)のほうが1.61月だけ商品を売ってから現金に変わるのに時間が余計にかかっていることになる。つまり、その分だけ資金負担が大きいといえる。

 業界平均等に比べて売掛債権回転期間が長い場合には、下記①~⑨に示すような理由が考えられる。

①焦付きの発生
②不渡手形の存在
③手形ジャンプの発生
④粉飾
⑤押込販売
⑥融通手形の存在
⑦延払等長期回収債権の混入
⑧回収条件の悪化
⑨その他

 回収が長期化する場合には、いずれにせよ、あまりよい理由は考えられない。個々のケースごとに調査をし、その原因を把握することが必要である。

 なお、A(株)の場合、1.61月(602百万円相当)のうち、0.85月分(320百万円相当)の不渡手形を受取手形のなかに入れて表示していたもので、残り0.75月分(280百万円相当)は粉飾によるものであった。

棚卸資産回転期間の意味と使い方

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 棚卸資産(在庫)の量の大きさが月数で表示される。この回転期間は、メーカーで1.5~2.0月、卸売業では1.0月以内が通常であるが、業種によってかなりのバラツキがあるので注意が必要である。

 この回転期間が長期であったり、前期に比べて長期化している場合には、
①架空在庫や水増し在庫の存在→粉飾
②過剰在庫の存在
③デッド・ストックの存在
等の理由が考えられる。

 なお、A(株)の場合、0.82月で業界平均0.74月に比べてそれほど大きな差ではなかったが、A(株)を調査した結果では、0.10月相当分(35百万円)のデッド・ストックがあることがわかった。

買掛(仕入)債務回転期間の意味と使い方

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 買掛(仕入)債務回転期間は、平均仕入高(または平均売上原価)を使って算出する。買掛(仕入)債務回転期間は、売掛債権回転期間とはまったく対照の関係となる。

 前掲のA(株)の買掛金の回転期間は、1.27月になっている。買掛(仕入)債務回転期間が3.97月であるから、支払手形の期間は2.70月となる。つまり、A(株)では商品を仕入れてから支払手形に変わるまで(買掛金の状態)が平均的に1.27月かかり、支払手形振出しから決済するまでに2.70月かかっていることになる。

 一方、B社は買掛(仕入)債務回転期間が4.42月となっている。両社を比較すると、A(株)のほうが合計で0.45月短くなっている。つまり、A(株)はB社に比べて回収が遅くて支払が早いというパターンとなっている

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 業界標準等に比べて買掛(仕入)債務回転期間が短かったり、前期に比べて短縮している場合には、次の理由が考えられる。

①粉飾
②信用不安の問題から仕入先が資金回収を早めてきた
③仕入価格値引きのための現金支払への変更など支払条件の短縮化

 一方、回転期間が長期化している場合には、次の理由が考えられる。

①支払先に対して支払手形の期日延長(ジャンプ)をしている
②取引先に対して融通手形を発行している
③決済条件の変更

 回転期間の長期化は、資金繰りの多忙化や経営の乱れを示すことがあるので注意が必要である。

 A(株)がB社に比べて買掛(仕入)債務回転期間が0.45月(150百万円相当)短い理由は、調査をした結果、
ⓐ主要取引先の1社が信用不安から資金回収を早めた部分が0.35月分(115百万円相当)で、
ⓑ残り0.10月分(35百万円相当)が粉飾によるものであること
が判明した。

運転資金負担回転期間の意味と使い方

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 「売掛債権+棚卸資産」と「買掛債務」のバランスを運転資金負担といい、これを平均月商で除したものを運転資金負担の回転期間という。商取引が継続する限り、運転資金負担は恒常的にほぼ同規模で発生するのが通常である。

 なんらかの理由で、売掛債権や棚卸資産が大きくなったり、買掛債務が縮小すると、この運転資金負担が大きくなり、回転期間が長期化することになる。その場合には売掛債権、棚卸資産、買掛債務のそれぞれの内容について調査することが必要である。

 粉飾を行うときは、総資産(総資本)に占める割合の大きい売掛債権や、棚卸資産または買掛債務を操作するケースが多く、その結果として運転資金の負担が増加することになる。

 この回転期間分析は粉飾を見抜く重要な手段といえる。

具体例について

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 (株)Mの事例をみてみると、毎期、運転資金負担が増加傾向にある。第10期より第11期への増加は、売掛債権の回転期間が延長したこと、すなわち資産が大きくなったことが主因といえる。

 次に第11期から第12期への増加は、買掛債務の回転期間が短縮したこと、つまり負債が圧縮したことが原因といえる。(株)Mの第12期の売掛債権回転期間は、業界平均に比べて1.72月長く、回収が長期になっている。さらに、第12期の買掛債務回転期間は業界平均に比べて、1.04月短くなっている。すなわち、(株)Mは回収が長く、支払が早いため、運転資金負担が大きくなっている。

 (株)Mは、その後1年半経って資金繰りがつかず倒産するが、主に運転資金負担のなかで約10億円の粉飾をしていた。

2015年11月16日

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