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2015年10月15日 

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日米の映画に見る組織原理の違い

久原 正治

昭和女子大学 現代ビジネス研究所長

 この夏はヒット作「日本のいちばん長い日」と「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」を見た。前者は半藤一利原作の終戦工作をめぐる昭和天皇(本木雅弘)、鈴木総理(山崎努)、阿南陸相(役所広司)らの8月14日から15日にかけての動きを描くノンフィクションで、1967年に岡本喜八監督が三船敏郎を阿南大臣、松本幸四郎を天皇役に起用した東宝超大作を、原田眞人監督がリメークした力作だ。誰も最後の段階まで決断もしなければ責任も取らない日本的組織の抱える病理がよく描写されている。これに対して後者はスパイ大作戦を原作とするフィクションで、トム・クルーズが主役を続ける5作目。悪徳国家のシンジケートに立ち向かう主役の活躍はテンポよく迫力満点で大いに楽しめ、個人主導で決断が早く、結果責任の米国の組織の特徴もよく見て取れる。その特徴は日米の組織原理の違いを示していて面白い。

 詳しく見てみよう。「日本のいちばん長い日」では、すでに敗北が明らかであるにもかかわらず、陸海軍がそれぞれの組織のメンツにこだわり、ああでもないこうでもないと儀式的な会議を続ける。不都合な事実を隠し続ける軍部に不満を持ってきた天皇が、鈴木貫太郎首相の助けを得て戦中唯一の自己意思決定を行う話だ。日本の各組織のリーダー達は自らの出身部門の利益の代弁者であり、共同体内の秩序と人間関係の維持を最優先しており、そこで組織全体の最適の観点から長期を見据えた大胆な意思決定が行われることは少ない。特に、損失や敗戦といった失敗を認める組織の意思決定は困難で、楽観的観測から問題を先送りし最終的に取り返しのつかない事態を迎えることが多いのは、東電の福島原発事故や東芝の不適切会計の問題に見られるごとく、日本の組織の特徴となっている。そこでは、組織首脳陣は責任を問われず、あいまいなままに問題処理は終結するのが常である。

 これに対して、「ミッション:インポッシブル」はフィクションのスパイ組織の話であるが、現実の米国の諜報組織の意思決定や組織間関係の原理がよく反映されていて面白い。米国でもCIAとFBIといった同様の業務を行う組織間の対立は日常茶飯事である。各々自己の縄張りの拡大を最優先の組織目標とし、通常の組織間の協調は困難である。映画では、そこにCIAの別動隊として位置付けられるIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)が登場する。これらの組織はいずれも大統領の指揮下にあり、組織の指揮命令系統、ミッション、ガバナンスのルールがはっきりしている。このような組織が巨大な敵と戦う際には共同作戦をとりタスクフォースが設置される。タスクフォースのメンバーのミッションは明確で、ミッションの達成に失敗すれば責任者は処分される。日本の組織と同様に、問題を先送りしたり決断しないトップや勝手な行動をとる部下もいるのだが、ルールが明確なので、問題はいつか露見する。トム・クルーズのように時にタスクフォースのミッションを逸脱する場合は、それは自己責任となる。日本の陸軍のように、無責任で過激な行動をとる中堅将校が組織の実権を握り、意思決定はその場の空気に左右されるトップの権限はあるようでなきがごとき組織は、米国では考えにくい。

 目的合理的な米国の組織に対し、日本の組織の本質が基本的にムラ社会から何も変わっていないのが、日米の映画を見ているとよくわかる。

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    『日本のいちばん長い日』

    (c)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会
    配給:アトミック・エース 松竹
    監督・脚本:原田眞人
    出演:役所広司 本木雅弘 松坂桃李 堤真一 山﨑努

  • 『ミッション:インポッシブル/
    ローグ・ネイション』

    配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
    (c)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
    監督:クリストファー・マッカリー
    出演:トム・クルーズ ジェレミー・レナー サイモン・ペグ レベッカ・ファーガソン

2015年10月15日

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