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2015年9月15日 

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「トレジャリー・マネジメント」を読んで

川上 徹也

元パナソニック株式会社 代表取締役副社長CFO
日本CFO協会 副理事長

 CFOである人、目指す人にとって、そのステージに立つ前にその気になって学んでおかなければならないことが山ほどある。トレジャリー・マネジメントもその一つだ。

 私は入社し、経理社員として事業部の工場現場に配属された。P/L中心に徹底した原価管理を教えられた。経理研修体系も5年間の基礎講座、3年間の中堅講座を受け、工場決算・海外事業の体験をし、事業部の責任者になる。本社転勤で関係会社や他職能の機能・トップ幹部との接点もできたが、新社長誕生の時、突然CFOとなり人生が変わった。全く今までと違う舞台に立った。就任2年目に上場以来初の赤字計上、大改革のスタートの決算発表、マスコミ、アナリスト対応、IR・資本市場、為替、税務、CPA対応等大変だった。財務知識も浅い上、能力不足もあり随分苦労した。CFOとしての知恵を、もがきながら外部専門家に教えを請いながら進めた思い出が印象深い。

 経産省主宰の「高度金融人財産学協議会」という長い名前の会で会長を続けている。大手メーカー、銀行、証券、保険、商社のCFOの集まりに大学も参加し、一年間一つのテーマで研究検討し、提言をまとめている。これまで、年金、ガバナンス、M&Aなどのテーマを取り上げてきたが、昨年よりGCM(グローバル・キャッシュ・マネジメント)を取り上げている。トレジャリーという言葉は、日本では定義も曖昧でなじみの薄い存在であるが、経理部門と財務部門の間の位置づけで、グローバル化が進むにつれて、ますます重要度が上がってくる分野だと思われる。ただ、この分野は日本に専門家は少なく、体系だった教育をしている企業も少なく、また教える人もいない。大学でも然りで、教科書、参考書もほとんど目にしない現状である。

 今回、CFOと財務担当者のための資金管理の教科書と副題をつけて、「トレジャリー・マネジメント」というタイトルの本が出版された。
トレジャリーとは、

 ・Cash, Liquidity, Fundsとそのリスク
 ・Cashを測定軸とした経営管理機能
 ・税務戦略策定と執行

という統轄機能を持つ役割である。適切な日本語訳がないことでもおわかりの通り、欧米に随分遅れをとっている。この分野における日本企業の現状と課題、そして先行きの展望も含め、極めて明確に鳥瞰図のようにまとめてある。 その内容は、

 ・トレジャリー・マネジメントの概要
 ・その関連業務
 ・経営責任との関係
 ・銀行との関連
 ・システム化における課題と解決策
 ・専門人材育成
 ・財務リスクの深堀りと対応

という構成になっており、CFOとしてトレジャリーの位置づけ、企業組織のあり方についても考慮すべき点を示唆している。

 私がCFOの時には、トレジャリーの仕事は財務部門の一部で、資金の窓口と為替実務と考えていたのだが、まずはグローバル化進展の中で地域ごとの金融拠点のネットワークをし、24時間稼働のシステム作りを図った。ところが、この作業は膨大な人と時間と投資を伴い、銀行のSWIFTとの接続は日本のメーカーには例がなく、大変な難工事となった。プロジェクトメンバーが2年間苦労して作り上げた。このようなシステムを必要とする日本企業も増えてくるだろうと感じたが、あれほどの金をかけてやるべきだろうかとも思った。しかし、現在の周辺環境は劇的に変化し、2~3桁も安い投資金額で体制が構築できるようになっている。そのことについては第5章で、目から鱗のように実にわかりやすくまとめてある。それに関連して、第4章で銀行の実情についてもコンパクトに整理してある。この事例一つでもわかるように、本全体がとても理論的に体系立てて組み立てられており、筋が通り、何よりも臨床医のように実践的な体験を通しての参考書となっている。

 4人の著者はいずれも企業の中で実体験をし、その重要性を熟知している人たちである。特に昆さんは、私が現役時代からお付き合いいただき、その人柄、知恵に触れ、真摯さや熱心さ、緻密さなどにいつも感心させられた。また、大田さんは私が副理事長を務める日本CFO協会に発足当初からご協力をいただき、以前トレジャリー分野の資格プログラムを立ち上げた際にも、大変ご尽力をいただくなど、トレジャリー分野の啓蒙にご尽力をいただいている。4人のチームワークによって、理論理屈だけでない、長年の経験の中から生まれた実践的課題解決も示してくれる、素晴らしいガイドブック・指南書ができあがった。

 こうした本が当時手許にあれば、私の知恵ももっと広がっていたことだろうと思う。志ある人は、ぜひとも読んでおくべき興味深い大切な一冊となると思っている。

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    トレジャリー・マネジメント
    CFOと財務担当者のための「資金管理」の教科書

    岸本光永・昆政彦・大田研一・田尾啓一[著]
    【発行】中央経済社
    【定価】2,808円(2,600円+税)

※本書「トレジャリー・マネジメント」は特別割引でご購入頂けます。
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2015年9月15日

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