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CFOFORUM

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パネリスト(ご氏名50音順)

浦田 晴之氏

浦田 晴之

オリックス株式会社
取締役兼代表執行役副社長・グループCFO

加藤 優氏

加藤 優

ソニー株式会社
副会長 中国総代表

杉浦 秀徳氏

杉浦 秀徳

京都大学経営管理大学院
特別教授
みずほ証券経営調査部
上級研究員

吉田 憲一郎氏

吉田 憲一郎

いちごアセットマネジメント株式会社
副社長 パートナー

モデレータ

藤田 純孝

藤田 純孝

日本CFO協会理事長

日本企業の低収益の背景を探る四つの視点

藤田 日本企業の業績(特に資本効率や収益性)を過去20年のレンジで見ると、欧米企業に比べてROEは極めて低くなっています。欧米企業の平均が15%前後であるのに対して、日本は5%程度です。また、20年間の株価のパフォーマンスは、欧米の2~3倍に対し、日本はほぼフラットで低迷しています。近年、主として海外投資家からコーポレートガバナンス問題を含めた問題提起等があり、コーポレートガバナンスやROEを重視する機運が高まっていることはご承知の通りです。本日のパネルでは、まず日本企業の低収益あるいは低業績の背景がどこにあるのか、また、これを打開するためには何をなすべきかについて三つの異なる立場、すなわち企業経営側、投資家側、ファイナンス理論側のパネラーの方々とそれぞれの視点から議論していきます。主な論点は次の四点です。

①コーポレートガバナンスの視点から日本の企業経営の特質とそのインプリケーション
②資本コスト、資本効率、企業価値成長に対する経営者の意識と投資家の考え方。これらについてのファイナンス理論からの見解
③企業側の収益性、あるいは、企業価値向上努力と投資家から長期資金提供の好循環を実現するための対話の促進
④コーポレートガバナンス改革動向と企業経営へのインパクト

 最初に、パネラーの方々からプレゼンテーションをいただきます。それでは、企業経営の立場からオリックスの浦田さんお願いいたします。

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経営現場の議論、株主との対話

浦田 オリックスの過去4年半分のROEと株主資本コストの推移を見ますと、株主資本コストが概ね8~9%で推移しているのに対し、ROEは2008年3月期(リーマンショック前)は13.8%でしたが、その翌年(リーマンショック後)は2%を若干下回るレベルまで落ち込みました。その後少しずつ改善する中で、マーケットに対して「2016年3月期、ROE10%を目指したい」と発信しました。幸いにもROEは、2014年3月期に10.5%(株主資本コスト8%弱)と目標を達成し、2014年度上期は年換算で14%台とリーマンショック直前を上回りました。今後は、10%を維持しつつ他の指標も見比べながら少しずつ伸ばしていくべく議論をしています。
 資本の有効活用については一つの指標で見ています。株主資本合計から、事業ポートフォリオのリスク量の合計を差し引いたものを未使用資本として株主資本全体の2割程度を維持したいと思っています。これは、さまざまな意味でのバッファという考え方で、株主に理解を求めています。一つは、新しい投資チャンスに機動的に応えられるような資本として、もう一つは、リーマンショックのようなダウンサイドリスクへのバッファという意味があります。
 株主還元については、経営としてはトータルとしての還元を意識しなければならないという観点から、株価パフォーマンスと配当再投資によるリターンの合計を表すTSR(Total Shareholder Return/過去3年間の超過リターン)で見ています。
 最後に、株主構成をリーマンショック直後と2014年9月末で比較してみますと、リーマンショックで大きく株を売った海外の投資家が今になって戻ってきたという状況が見えてきます。
 ご覧いただいた資料は最近の中間決算取締役会で使用したものの抜粋ですが、こうした結果に対して、われわれは取締役会において企業価値がどう決まるかを念頭に置いて議論を重ねています。企業価値向上の概念式は、将来キャッシュフローを現在価値修正する形になります(キャッシュフロー÷負債コストと株主資本コストの割引率)。企業価値を上げるために、いかに利益成長を図るかを第一義的に議論する一方、いかに割引率を低下させるかを考えます。そして、WACC(割引率)の低下のために、β値および株主資本コストの低下、レバレッジの上昇、信頼性確保のためのコミュニケーションの強化に力点を置いています。株主資本コストの低下については収益の安定性に努め、レバレッジの上昇についてはしっかりグッドリスクを取って利益成長を図っていくことが大事だと考えています。

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資本効率追求は経営・投資家共通のテーマ

藤田 続きまして、昨期までCFOをお務めだったソニーの加藤さん、お願いいたします。

加藤 「継続的な企業価値向上に向けて」ということに、会社側も投資側も異論があるはずはありません。それが日々の具体的な経営判断に具体化していくと、いろいろな議論が出てきます。中でも「事業領域の選択」と「事業間シナジー効果」は常に議論になります。エレクトロニクス事業は、激しい業界変化のさなかにあります。昨日のビジネスが明日には役立たないほどのスピード感で変化が起きますから、メリハリのある事業領域の選択は、常に議論になります。「資本効率を測る尺度・KPI」は、実務に落とすときの苦労がたくさんあります。資本コストの計算もその一つです。複数の事業を持っている会社は、エクイティを事業間で分割する手法がとりにくい。例えば、事業部ごとのB/S管理制度などを行う際もエクイティの部分などが分けづらく、バランスシートをつくるとき本質論でないところで時間を費やしてしまう難しさがありました。また、よくある議論ですが、「時間軸、長期VS短期の視点」もあります。「他のステークホルダー視点」も、継続的な企業価値向上という点で経営として無視できません。「有事の抵抗力」は効率性の追求が不可欠ですが、不測の事態に備えてのりしろは持ったほうがよいという視点が会社側にはあります。「リスクの許容度」も重要なポイントです。ROEを目指した経営をなすべきという前提に立って、こうした議論をきっちり行う必要があります。
 継続的な企業価値向上に向けて、市場・投資家からの要望を、企業は襟を正して聞かなければなりません。反省も含めて申し上げれば、事業領域のメリハリのある選択と集中が日本の企業は不得意です。法整備も含めて労働市場の環境もあるでしょう。日本企業は雇用をとても大事にします。良し悪しの問題ではなく、真剣に考えなければならないと感じています。
 収益に直結するのが、「ビジネスモデル」です。変化の激しい市場にいる会社は、変化に対応した価値創造ができていることが極めて重要です。「昨日と同じことを改善しながらやっているだけではないか?」という問いを常に自らに課すべきです。過度の自前主義や垂直統合は、日本の製造業が陥りがちな罠です。差異化領域でないところはアウトソースする。自分の資本を寝かせない。それが大事だと思います。
 日本企業は多少目先の収益が落ちても、長期的に生き残ることにポイントを置いて、「売上成長、シェア重視」になりがちだと言われます。これも良し悪しの議論ではなく、「今置かれた状況において正しい選択をしているか」という問いを自らに課すべきであろうと思います。
 ソニーは、1961年にADRを発行し、1970年にニューヨーク市場に上場し、USGAAPでの業績報告や社外取締役などもかなり早くから導入していますが、会社の中で判断を下す際、市場との接点(情報開示、投資家との対話、ガバナンスの仕組み、株主総会)で対話しながら会社の方向性を共有していくプロセスは、丹念に行うべきだと思います。

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日本株長期低迷の最大の背景は「ROE<株主資本コストの常態化」

藤田 投資家あるいは資本市場の観点から、いちごアセットマネジメントの吉田さん、お願いいたします。

吉田 日本株の長期低迷は、「日本の会社のROEが長期的に低く、かつ資本コストを下回ってきた」ことでほぼ説明できます。過去30年間の日本企業のROEは、5%台半ばでした。1980年から約30年間のTOPIXの配当込みリターンは5%半ばでほぼ同じ。アメリカのS&P500の平均ROE(過去30年間)は13%台、株のパフォーマンスは配当込みで12%です。ROEと株のパフォーマンスは、長期的に見ればほぼ一致しますから、日本の株式相場が長期的に上昇していくには日本企業のROEの継続的な向上が必要です。ROEが8%を上回っている東証上場企業のほとんどは、PBRが1倍を超えています。さらに8%を上回る水準では、ROEの上昇に伴ってPBR(株価)が上がってきます。一方、ROEが資本コストの6~7%を下回っている会社の株価は、PBRが1倍を下回っている場合が多くなります。
 これほど低いROEが続いてきた背景の一つは、欧米企業と比較した売上高利益率の低さにあります。もう一つは、日本企業の内部留保の多さ(法人企業統計ベース)です。98年度131兆円だったものが、なんと2013年には328兆円と、15年間で2.5倍に膨らんでいます。GDP比70%近くの内部留保がたまっているわけです。GDPが増えたわけでも、企業の利益が大幅に増えたわけでもありません。必要以上の内部留保が日本企業全体でたまってきたという事実があります。
 日本株の低迷は企業サイドだけではなく、投資家にも大きな問題がありました。株のパフォーマンス低迷により、GPIFなどの年金基金に占めるウェイトが引き下げられ、株の売りにつながりました。また、パッシブ運用の比率が上がり、個別リサーチしてファンダメンタルズを分析する投資が減り、努力している会社もそうでない会社も同じように投資される傾向が強まりました。ヘッジファンドはもちろん、本来は長期運用であるべき年金のファンドマネージャーも四半期ごとの成績を気にして、短期的な売買が盛んになりました。
 そうした企業と機関投資家の問題を構造的に変えようというのが、「日本再興戦略」の中のガバナンス改革です。コーポレートガバナンスと投資家のスチュワードシップ強化で、対話促進を通じた企業価値の持続的向上を狙ったもので、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードを柱としています。スチュワードシップ・コードは、2014年2月の発表以降、160の運用機関が受け入れています。イギリスのスチュワードシップ・コードは金融危機を招いたのは機関投資家による銀行経営陣の監視の甘さだとする批判をきっかけに制定されました。
 日本のスチュワードシップ・コードの意図するところは、企業の資本効率の低さを放置してきた機関投資家を律することにあります。投資先企業の資本効率の向上を背景とした株式パフォーマンスの改善によって、最終的な受益者である年金受給者への長期的なリターンを向上させるのが日本版スチュワードシップ・コードの目的です。
 外国人を加えると日本株の保有に占める機関投資家の比率は2000年代半ばから50%を超えています。彼らのほとんどはモノ言わぬ株主でしたが、この状況が大きく変わる可能性が出てきました。
 2014年はJPX日経400、伊藤レポート、議決権行使助言会社のISSなどから、企業の資本効率向上を促すさまざまな取り組みや提言がなされました。
 しかし、結局は企業のトップ経営者の考え方にかかっています。採用する社外取締役を長期的な企業価値向上にどう活用するかを本気で考えるべきでしょう。同時に、われわれ機関投資家が企業の信頼されるパートナーになれるべく日々努力して実力をたくわえるのが重要だと考えます。

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ROEを超えて――投資家との対話を経て目指すべき姿を描く

藤田 ファイナンス理論の視点から、杉浦さん、よろしくお願いします。

杉浦 大学でコーポレートファイナンスを教え始めて約10年になります。その間企業の人たちとの勉強会も続いています。最近も多くの具体的なテーマをいただいています。中でもガバナンスがかなり重視され、定着し始め、議論され始めたと感じています。ガバナンスを考えるとき、要点は三つあります。
 一つ目が、デットガバナンスとエクイティガバナンスの関係です。現在はデットガバナンスからエクイティガバナンスへの移行期だと言われますが、それぞれの役割は異なります。企業が自らを律するコーポレートガバナンス・コードは、デットガバナンス、エクイティガバナンス、コーポレートガバナンスの三つがバランスして初めて全体が機能するのではないでしょうか。
 二つ目が、デットガバナンスとエクイティガバナンスの違いです。両者はアプローチにかなり違いがあります。銀行は基本的に企業のインサイダーです。中に入って経営者と話しながら人事や経営戦略も考えていくという、かなり身近な存在です。一方、エクイティは基本的に外側です。インサイダーの話を手に入れると取引しにくくなることもあり、基本的には公開情報をもとに行動します。そのため情報開示の強化、および株主の代わりに議論してくれる独立社外取締役が必須になります。この二つのガバナンスは違いを踏まえて共存が可能と考えています。
 三つ目が、コーポレートファイナンス理論の位置付けです。デットガバナンスもエクイティガバナンスも、基本はコーポレートファイナンス理論です。コーポレートガバナンス・コードの原案には、経営者は株主に分かりやすい言語・論理で話をすべきだという言葉が出てきます。コーポレートファイナンス理論の重要性を感じます。加えて、スチュワードシップ・コードには、投資家はもう少し勉強すべきというニュアンスの言葉が書いてあります。経営者、投資家双方に対して、それぞれのコードで勉強を促しているのです。
 次に、中期経営計画の話をさせていただきます。2014年12月の証券アナリストジャーナル「企業情報開示の進展と課題 ―ショートターミズム論議を超えて―」という特集で、私は「企業価値向上を目指す中期経営計画の構造と今後のあり方」という論文を執筆しました。その中で、日本企業と海外のトップ企業(6業種上位5社ずつ、計30社)の中期経営計画を比較しています。大きな違いは三つあります。
 一つ目は期限です。日本企業が年限を区切ったアクションプラン型であるのに対し、海外企業はベンチマーク型です。例えばROIC12%から15%を維持するなど、特に期限を定めずに大事な指標を守っていくという形が多くなっています。
 二つ目はROEの扱いです。海外企業30社の中にROEを目標としている企業は一社もありません。日本でこれだけROEが叫ばれている中で、海外にはそれを目標としている会社がないのです。海外はROICが主流です。ROICとはROEの原資です。どうやって儲けていくかを事業単位で考えている。海外ではROICで稼いだものは適正な資本構成・株主還元を通して高いROEを保つのが当たり前とみなされています。一方、日本企業は事業戦略等が非常に重要で、ROEまで頭が回らない部分があります。そのため、日本ではいったんROEを目標とし、資本コストをクリアしてから次の目標を考えるのがよいと感じています。
 三つ目は数値目標です。日本企業は、売上高あるいは営業利益額、営業利益率が一般的です。対して海外企業は、バラエティに富んでいます。会計上の数字にもこだわっていません。例えば、シーメンスの数値目標は、「競争相手5社の平均の売上高成長率を超えること」です。以前はGDPと比較しており、競争相手を比較対象にした途端に相手があまりに強いため目標水準が2倍になりました。ネスレの数値目標は、売上高利益率を毎期改善することです。15%ほどもある利益率を毎期改善していくのは非常にきついと思います。
 日本の中でも特徴的な企業はいくつかあります。三菱商事が2013年に出した、2020年を目指した中期経営計画には、ROE12~15%は入っていますが、明確な数値目標はほとんどありません。重視するのは、「2020年に当期純利益を200億円以上稼げる部署を10個つくる」です。オリエンタルランドは、今は入場者が3,140万人に達していますが、2020年までに満足入場者を3,000万人にするという目標を掲げています。満足度の高い入場者を増やすことが一番の目的だと言っているのだと思います。形にこだわる必要はないのです。
 ROEは重要だし、ROEを上げるべきだと私も主張しています。ただし、その先もあるはずです。ROEを目標として達成すれば、投資家との間で信頼関係ができます。次はどこを目指すのかは、さらに広い議論ができるようになるのではないでしょうか。

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投資家と企業の対話と業績改善

藤田 ここからは、いくつかの論点に絞ってディスカッションしていきます。本日のメインテーマは、日本企業の収益性の議論です。資本コストを上回る利益を出して企業価値を向上させていくという課題があります。その議論に入る前に、ファイナンス理論や経営理論以前の、ガバナンスの観点から見ておく問題があると思います。一つには、日本企業の会社共同体的特質があります。日本の大企業は、多かれ少なかれ、終身雇用、年功序列、従業員と元・従業員の経営者で会社を経営している側面を持ちます。加えて、ずいぶん変わってきてはいますが、株式持ち合いとメインバンク制は、日本企業を投資家の経営効率に対するプレッシャーから遠ざけてきました。結果、ROEの低さにつながっていると思えてなりません。もちろんそれがすべてではありません。海外投資家の台頭等で、随分変わってまいりました。特に最近は株式保有構造が、海外の投資家がストックで30%、日本の機関投資家が25%と変わってきています。そこで、さきほど議論にあった「投資家と企業の対話のクオリティを上げて企業の業績改善を図る」という視点で、ご意見を伺いたいと思います。まず、加藤さん、今のポイントについてどのように思われるかお願いいたします。

切磋琢磨するために対話のツールを持つ

加藤 一般論としてはそういうことはあると思いますが、ソニーの場合を振り返ると、事情は少々異なります。戦後の新興企業でしたので、年功序列や終身雇用という考え方は当初から少し薄かった。立ち上げ当時、銀行借入には大変お世話になりましたが、業績が上がってくると、銀行借入よりもエクイティによるファイナンスが大きかったと思います。加えて、早くから海外の資本市場に資金を求めて打って出ましたので、市場の風に早くから当たっていました。ただし、それだけで会社業績が伸びるわけではありません。結局はコンペティターとの関係でどう手を打つかが勝負の分かれ目です。投資家といい議論をしたからといって、必ずしも結果がついてくるわけではありませんが、投資家との対話を通じての切磋琢磨が大事なのではないでしょうか。
 CFOとして業績発表の後、日米欧の主立った投資家をまわって必ず出てくるのが、「投資判断の目安は何ですか」という質問です。そこで、「成長マーケットだ」「差異化領域はここだ」「強みはここだ」「収益性があがるところを狙っていく」「事業間シナジーもある」などと、作戦をとうとうと述べても、それを聞いた揚句にもう1回、聞かれます。「分かりました。それで投資判断の目安は何ですか」と。ここで聞いているのは、「物差しを持って会社は判断しているか」の一点なのです。ROIC、ROE、ROA等なんでもかまいません。「これで競争に勝つ」という作戦だけで説得しようとしても、海外の機関投資家は難しいというのが私の実感です。説得には会話のツールが必要です。それが情報開示であり、分かりやすい言語、メジャラブルな指標、可視化できるツールです。

プロCFOの誕生に期待

藤田 投資家と企業側の対話が企業業績を上げていくうえで極めて大事であるという議論もあります。投資家のお立場から吉田さん、いかがでしょうか。

吉田 アメリカ等の大学や財団のお金を運用しているわれわれの実情を申し上げれば、円安が進めば進むほど買い余力が増しています。そうした意味で外国人の持株比率はさらに上がっていくと思います。これまでも外国人投資家は継続的に日本企業のコーポレートガバナンスの向上を訴えてきました。今後、日本の投資家もスチュワードシップ・コードに基づいて企業との対話を強化するようになります。
 会社共同体的特質について、CFOの皆さんがお集まりの場で申し上げたいのは、日本の場合、プロのCFOやCEOがもっと出ていただきたい。流動化していただきたいと思います。GE出身の経営者はたくさんいます。サンマイクロやノベルのCEOを経て2001年グーグルのCEOとなったエリック・シュミットはグーグルを育て、グーグルにいたシェリル・サンドバーグは、フェイスブックにヘッドハントされてフェイスブックを一流会社にしました。そうしたプロのCEO、CFOの流動化があれば、企業価値の向上に日本全体として進むのではないかと思います。

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市場との対峙の仕方、ファイナンス理論の使い方

藤田 資本コストあるいは資本効率、企業価値成長に対する経営者の意識、投資家の見方、阻害要因に話を進めたいと思います。はたして経営者は資本コストあるいは資本の生産性を意識しているのか、という素朴な疑問があります。同時に、ファイナンス理論だけでつくった効率的でスリムなバランスシートや資本構造が本当にそれでいいのか、という議論もあります。また、投資家が短期志向になった結果、経営も短期志向にならざるを得ず悪循環を呼んでいる、という議論もあります。このあたり浦田さん、ご意見をいただけますか。

浦田 私もCFOとして四半期ごとの決算の度に、日米欧の株主や投資家あるいはアナリストとディスカッションしますが、ここ数年、特にリーマンショック以降、多くの場合、極めて短期的な視点でのディスカッションになりがちだと感じています。「この四半期の決算の結果から、次の四半期どうなる?」「今期着地見込みは?」「今期は達成できたとして来期は?」といった、非常に短期的な質問が多く、「新しい経営体制のもと中期的にどんな方向感で経営しようとしているのか」「今後の成長戦略を主にどういう方面で考えているのか」という議論にはなりづらい。私としては、新しいCEOのもとでの新しい考え方をご理解いただきたいと思うのですが、このマッチングが極めて困難です。
 昔は世界中の投資家とかなり長期的な視点でオリックスの成長を語り合ったと聞きます。資本主義のあり方、資本市場の意義が大きく変わってきたように思います。経営者としてあまりに株主・資本市場の意見に左右されると、本当の意味での中長期的な持続的成長がないがしろになりかねません。企業を守るのは経営者です。ある程度の距離感をもって資本市場と対話することも求められるのではないかと思います。
 「ROEの成長をどう図るのか」という質問も、しばしばいただきます。私たちの場合、ROEはROAとレバレッジの積で考えます。レバレッジが今のレベルで推移するという前提のもとでは、ROA(それぞれの資産の収益性)を上げていくことでROEを伸ばしますから、ROAの低い事業が議論のポイントになります。そこでは中期的な成長戦略とミックスするように、私の方から誘導する工夫をしなければ、中期的・持続的な成長戦略の議論になりません。そんなことを思いながら、日々マーケットに対峙しています。

資本コストの考え方の共有

藤田 ファイナンス理論の議論が出てまいりました。ファイナンス理論で最も効率的な形にしたとき、理論的には正しいけれども企業経営の観点からはどうなのか、という議論もあるかもしれません。杉浦さん、浦田さんのお話を受けていかがでしょうか。

杉浦 浦田さんに質問があります。伊藤レポートでも指摘されているように、投資家には多様性があります。一時的にせよ、日本では短期的な投資家の声が大きかった時期がありました。しかし、成長が限られている中で、長期投資家は投資できず短期投資家の比率が増えたとの指摘もあります。最近オリックスさんの業績が伸び始めている中では、「投資家が変わってきた」「長期投資家が増えてきた」という変化はありますか。

浦田 表面的にはいわゆる長期の成長をポイントに投資していく投資家(あるいは株主)の数が増えています。ただし、実際の売買の動向を見ていると、長期保有を標榜されていても、実際の売買は必ずしもそうではないな、というのが実感です。

杉浦 ありがとうございます。私自身は、例えば現金保有水準、ROEや資本コストの考え方について結構質問を受けます。それで、浦田さんがはっきりとROEと株主資本コスト、WACCとD/Eレシオの推移を示していただいているのは非常に素晴らしいと思います。実際に計算された方はご経験があると思いますが、資本コストの重要性が叫ばれる中、一般的な数式は示されていても、いざ計算しようとすると結構難しいのです。加藤さんがおっしゃっていたように、投資家とどうやって議論していくか、自分たちの計算した資本コストの考え方を話し合いながらやっていかなければ、議論がかみ合わないように思います。
 「ROEはテクニカルな指標であってレバレッジを高めれば操作できるからあまり指標としては適切でない」という話が出ることがありますが、私はそうではないと思っています。投資家は適正レバレッジを見ています。オリックスさんであれば、「D/Eレシオが3倍から2倍に落ちたのは落ち過ぎではないか」と見るかもしれません。逆に無理にレバレッジを上げてROEが上がっても評価しません。かえって資本コストが高くなって企業価値が落ちることになります。海外の投資家が「ROEを上げてくれ」「レバレッジを使ってくれ」と言うのは、一部の非常に安定性のある企業に対してです。ROEを自分たちが望む水準に上げるために、レバレッジを使ってもいいと思います。テクニカルな指標であろうが何であろうが、自分たちが適正だと思える範囲でレバレッジを使えばよいのです。無理なレバレッジでROEを上げれば評価が下がり、痛い目にあうだけです。

マーケットとの対話と株主還元策の考え方

藤田 資本市場において投資家と企業経営者の対話の重要性について考えます。両者の理解が増して、目標を共有しながら、企業価値向上の努力と長期資金の提供という好循環を回していくための対話や情報公開の質や株主還元策の議論が出てくると思います。このあたりにつきまして、杉浦さんいかがでしょうか。

杉浦 対話については、長期投資家の方と話をしていくことが必要だと思います。投資家の多様性を知ることが大切です。情報開示については、先に述べたとおりエクイティ投資家は、公開された情報しか手に入りませんから、しっかり情報開示をしなければ投資家はついてきません。
 株主還元については、最近質問が多くなっています。加藤さん、浦田さんからもある程度のバッファとしての剰余金、つまり余裕は必要だというお話がありました。理論的にもそれを否定するものではありません。ぎりぎりで経営して企業が破たんしてしまうことを、投資家がよしとするはずがありません。ただし、株主にはバッファとしてどこまで持つかの基準を示す必要はあります。例えば、先日富士フイルムが2,000億円株主還元して4,000〜5,000億円投資するという3年計画を発表しました。同社は、「手元にある6,000億円をどうするか」が問われ続けていました。「投資に使う」「バッファも考えなければならない」という中で、明確に手元資金の水準を下げようと考えたわけです。今回、投資と還元で6,000億円使えば、3年間でキャッシュフローを3,000億円ほど生んで、差し引き3,000億円程度手元資金は減るかもしれません。しかし、同社がバッファを減らして新たな投資と株主還元を行う決定を市場は高く評価しました。
 また、最近自社株買いが活発になっています。投資機会が多い三井物産と三菱商事が、PBRが低いことを一つの理由として自社株買いをしました。彼らは剰余資金を配分しているわけではありません。「投資よりも自社株買いのほうが効率がいい」という判断をしたことになります。以前から投資家たちは、「場合によっては配当しなくてもいいから自社株買いしてくれ」と言っていました。それが新しい動きとなったのは頼もしいと感じます。

長期投資家による会社の見方

藤田 杉浦さんのお話に関連して、投資家側として吉田さんいかがでしょうか。

吉田 われわれの会社は長期投資家です。企業を分析させていただくとき、本業の資産(固定資産、正味運転資金)と純金融資産(余剰現預金、持合株式など)に分けて、われわれは本業のROICを分析します。企業価値の向上という視点からは、ROICの高い会社は金融資産を持つより本業の競争力強化と成長のために積極的に投資していただきたい。あるいは、ROEの高い会社は株主還元するよりも、事業に投資していただきたいというのがわれわれの基本的なスタンスです。
 これまでは日本の株式相場自体が長期上昇トレンドではありませんでしたから、リターンを追求する投資家の人たちがロングショートのヘッジファンドなどに任せるしかなかったという面があります。継続的に株価が上昇していくようになれば、国内で数少なくなった長期投資家も日本に復活すると考えています。

株主は等距離、公平に。一致点を探る

藤田 加藤さん、浦田さん、それぞれのお立場からコメントをいただきたいと思います。

加藤 投資家の皆さまとの対話の現場的な視点から言えば、あらゆる株主の方々と等距離での対応は必要であろうと思います。開示する情報の透明性や均質性といったルールは守らなくてはなりません。それを超えた部分でセレクティブディスクロージャーにならない範囲内でどう対話ができるか。そこが時間の使い方をやりくりするところだと思いますが、まずはベーシックな部分に改善の余地があるというのが反省でもあり実感です。
 ソニーは早くから海外の資本市場の風に当たっていますが、それでもまだまだ改善の余地はあります。例えば、開示内容もセグメント情報のさらなる充実を目指し、セグメントごとの資産の持ち方や、EBITDAベースでの分析を出したりしています。また、2014年にはエレクトロニクス事業で初めてインベスターデイを開催し、投資家・アナリストの皆さんを招いてセグメントごとの説明を1日かけて行いました。四半期の業績発表では、1時間以内という限られた時間しかないため踏み込めない部分も、1日かけるとかなり網羅できます。こうした取り組みも株主の皆さんとの対話の中から出てきたものです。実は、エンターテインメント事業では、2013年からこれを行っていました。
 2013年、ソニーは世の中ではアクティビストの投資家といわれるサードポイントさんから数%の投資を受け、経営に対していろいろな質問や疑問を呈されました。ここからやり取りが始まりました。どういう志向の株主であろうとも、まずは等距離、公平に対話するというのがわれわれのスタンスです。必ずしもすべての提案に対して意見が一致するわけではありませんが、一致する点も中にはあります。エンターテインメント事業について、せっかくよい事業なのだから開示を進め経営の透明性を上げるという点でわれわれは一致しました。それまではあまり充実していなかったエンターテインメントの分野の細部にわたる開示を2013年から行ったところ、マーケットはポジティブに反応しました。株価は多様な要素で決まります。一義的には言えませんが、そうした改善はとても大事だと思います。

株主還元と成長率のバランス

浦田 オリックスもコミュニケーションは非常に重視しています。特にリーマンショック以降、大きく低下した収益性に関して、オリックスの経営の考え方と改善の道筋について、四半期ごとにプランと進捗を説明してきました。開示という意味でも計数面でも非常に充実していたと思います。ただし、繰り返しになりますが、いま、考えると、環境が大きく変わる局面において、そうした細かな開示が本当に投資家・株主のプラスになるのかという若干の疑問を個人的には持っています。
 株主還元については、ROEとレバレッジが変わらなければ、利益成長率=ROE×(1-還元性向)になりますから、成長率と還元は相反する要素があります。そういう意味では、例えば、ROE10%程度を維持しながら、還元性向が30%ならば、利益成長率が7%でいいということになります。しかしそれは、今のオリックスが、マーケットあるいは既存株主から求められているものではないと考えています。基本的に、内部留保は利益成長のための投資に使っていくということで、直近は配当性向20%をうたっています。自社株買いについては、利益成長のための投資機会がまったくないような状況になれば必要となるかもしれない、というコミュニケーションをとらせていただいています。

藤田 ありがとうございました。今日は資本効率と企業価値向上への経営戦略と課題という観点で、「なぜ日本企業の業績が今の状況なのか」「どうしたらいいのか」についていろいろな角度、お立場から議論をしていただきました。コーポレートガバナンスの視点、あるいは、経営理論、ファイナンス理論の視点、さらには対話の重要性まで貴重なご意見をいただきました。また、吉田さんからは、それらの問題以外に会社共同体的な特徴を踏まえてCFO人材の流動化をもっと図るべきであるというご提言もございました。非常に貴重なご意見が多数出たと思います。ご批判、あるいはご参考になる部分が多かったのではないかと思う次第でございます。長らくのご清聴ありがとうございました。

※本稿は、2014年12月2日開催の「第14回CFOフォーラム・ジャパン2014」の講演内容を編集部にてまとめたものです。

2015年1月15日

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