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資本主義経済のパラダイム転換
―コラボ型シェア資本主義への道―

久原 正治

昭和女子大学 グローバルビジネス学部長

 2014年を振り返ると、年初には回復の兆しが見えた世界経済も、年末に向けて中東などの地政学的不安定性が増し、経済好転には程遠い状況で新年を迎えている。もう3年前になるが、サンディエゴで開催された正月定例の全米経済学会で、経済学の大御所ルーカス教授、アロー教授など錚々たるメンバーが、リーマン・ショック後の世界経済再生の処方箋も出せずにいる現代経済学の問題を熱心に議論していたことを思い出す。我が国のデフレ経済の処方箋として採られたアベノミクスの現状も、残念ながら所期の効果がでているようには思えない。今必要なのは、資源の効率利用と最適配分を問う市場型資本主義経済のパラダイムからの転換ではないだろうか。

 今回は、60年代後半のベトナム反戦運動に参加し、その後一貫して社会共通資本をベースに人々が共生できる新たな資本主義へのパラダイム転換を唱え続けた、日米の二人の思想家の本を取り上げてみたい。

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    ① The Zero Marginal Cost Society

    Jeremy Rifkin
    Palgrave Macmillan, 2014

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    ②経済と人間の旅

    宇沢弘文
    日本経済新聞出版社
    2014年11月

 昨年9月、我々は宇沢弘文という世界的な経済学者を失った。宇沢は60年代に数理経済学の2部門成長モデルで既存の経済学の発展に貢献したが、その後、理論的には精緻化したが世の中の問題の解決から遠ざかる既存の経済学に疑問を持ち、医療や教育、自然環境といった社会的共通資本の役割に目を向けることになる。②はその宇沢の生涯一貫した歩みを、日経新聞連載の私の履歴書や経済教室等への寄稿をまとめ昨年末に出版された。既存の経済学に疑問を持ち、人々の幸福とは何かを考え続けた宇沢の思考の歩みがよく分かる。新しい年を迎えるにあたり、もう一度宇沢の提唱する人々を幸せにする経済学と社会共通資本の役割をじっくり考えてみる価値はありそうだ。

 一方、持続可能な再生エネルギーの問題にいち早く取り組み、炭素燃料からグリーンエネルギーへの転換と共生社会の具体策をEU政府や先端企業にアドバイスしてきたのが、ジェレミー・リフキンである。彼が昨年出版した①は、市場原理で資源を浪費する私有制に基づく市場型の資本主義が衰退し、新エネルギー体制とインターネットインフラとの結合により、モノやサービスの限界費用がゼロに近づくコラボ型のシェア(共有)資本主義社会への動きが進むことを俯瞰しており、読みごたえがある。2014年ベストセラーになった「How Google Works」や「ゼロトゥワン」などに見られる、シリコンバレーの起業家たちが取り組むITによって繋がれた(Internet of things)新しい社会の創出について考えるベースにもなる重要な本だ。

 著者は、最初に私有財産と市場原理に基づく資本主義からコラボ型の共有社会へのパラダイムシフトを概観する。それは、インターネットでつながった社会共通資本をベースに、グリーンエネルギーと自動車などの輸送手段の結合と共有、3Dプリンターによる大量生産から個別生産への移行、MOOCによる無料高等教育の拡大などの社会であることが具体例とともに展開される。著者は、この社会を「限界コストがゼロに近づく社会」と定義する。例えば自動車交通を考えると、3Dプリンターと電池エンジンによる分権化された自動車製作、その燃料としてのグリーンエネルギーのネット伝送、GPSや自動運転などによる自動車所有の共有化により、限界コストがゼロに近い自動車社会が実現される。エネルギーとITコミュニケーションが結び付き、モノやサービスの共有と人々の互助によるエネルギー低消費型の定常経済の実現である。著者は、このような社会をコラボ型シェア社会(Collaborative commons)と名付け、これを私有財産と市場原理に基づく資本主義の代替システムと位置付ける。そこでは、クラウドファンディングにより社会資本が生まれ、通貨は民主化され、労働が人間化されていくとする。

 最近のウーバー(Uber)のようなシェア型の移動ビジネス、ビジネス支援のクラウドサービス、ソーシャルアパートやシェアホテルなどの居住空間のシェア型ビジネス等の急速な進展を見ていれば、リフキンの言うコラボ型共有社会への動きと、そのための社会共通資本に関する法的インフラ整備等の重要性が実感できる。

 従来型の経済学の発想では現代の経済問題は解決できない。リフキンと宇沢は我々の前に現代資本主義のパラダイム転換の一つの道を示している。

2015年1月15日

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