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グローバル競争時代の大学教育はどこに向かうのか
─リベラルアーツ教育とオンライン教育─

久原正治

昭和女子大学 グローバルビジネス学部長

 グローバリゼーションと科学技術の進歩の中で大学教育も変貌している。我が国では「スーパーグローバル30校プログラム」に見られるように、国の大学予算はビジネス環境の変化に対応する教育に重点配分され、各大学では英語のできる即戦力のグローバル人材を養成することを教育目標として標榜するのが一種の流行になっている。また、アメリカのトップ校から始まった授業をオンラインで提供する動きは、MOOC(大規模オープン・オンライン・コース)として広まり、今や世界中の人々が好きな時に好きな場所で最高水準の授業を低コストで受講できる環境が一般化している。

 そこで今回は、ビジネス界の方々が大学教育とビジネスの関係をじっくり考え直してみるのによい本を選んでみた。

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    ① Beyond the University: Why Liberal Education Matters

    Michael S. Roth
    Yale University Press, 2014

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    ② ルポMOOC革命
    ──無料オンライン授業の衝撃

    金成隆一
    岩波書店
    2013年12月

 ①は、米国のリベラルアーツ名門校ウェスリアン大学のロス学長が、自らの長いリベラルアーツ教育経験をベースに、実用教育重視派とリベラルアーツ教育重視派の長年の論争を振り返ったうえで、技術が発達し社会が激しく変動する現代にこそ、先を見通し生涯続く学習の基盤となる思考力を養うリベラルアーツ教育が重要であることを述べている。

 ロスはリベラルアーツ重視派の考えを引用し、学問はすぐに役に立つものではなく、現実に疑問を持ちながら自身がいかなる存在で将来どのようになろうとしているのかを深く考える手段であり、ホーマーやシェイクスピアの原典テキストに取り組むような真のリベラルアーツ教育こそが、その後の人生で専門的な知識や経験を深める基盤になると説く。そして、大学のリベラルアーツ教育の価値は、学生が普段読むこともない古典の教材から学ぼうとする意欲と能力を培うのを助けることにあるとして、人々がリベラルアーツ教育の意味と重要性をもう一度問い直すことを提案している。ロス学長は、大学の教室での少人数の授業だけではなく、オンラインでの不特定多数向けの講義も経験したうえで、リベラルアーツ教育の効用を再確認している。本書を読むことで読者は、今日の日本の大学教育がビジネスに直結した教育を標榜することで失っている重要なものに気づかされることになる。

 ②は、オンライン教育がいかに世界の大学教育の姿を変えているか、日米で地道に現場取材を続ける朝日新聞金成隆一記者の現場からの報告である。MOOCは2012年になり米国で本格的な配信が始まった。それまでも一部の大学では教材や講義ビデオを公開していたが、世界一流の大学等の講義を学びたい人がいつでもどこでも低コストで学べる時代の到来は、社会を変革させるものであると金成記者は言う。特に、これまで大学で学ぶ機会を閉ざされていた世界中の若者に一流の講義で学べる機会を提供し、将来の可能性を広げており、シリコンバレーのような技術が日々変化する環境で働く人々には、最新の知識を更新する機会を与えていることを強調する。

 今後このMOOC革命がどこに向かうのか、金成記者によれば、MOOCはこれからも良質の教材を豊富にWeb上で公開を続け、学校教育の補完として一層発達するとともに、大学自体が授業料の高騰を抑えるために、他大学のオンライン授業を利用したり、自ら一定の授業料を取りオンライン教育プログラムを提供するようになる。個人の高等教育は最終学歴ではなく、それぞれの時点で個々人が必要とする教育をどれだけ受けているかという学びの時価のようなもので評価されるようになるとされる。筆者は、最近金成記者に直接話を伺う機会を得たので、世界のオンライン教育の言語が英語に収束するのかどうか聞いてみた。金成記者によれば、現状米国の一流大から優れた講義が英語で提供されているので、学びのツールとしての英語の重要性が強調されているが、現実にはオンライン教育が普及し大衆化するとともに、英語でのエリート大学の講義とローカル言語での一般向けの講義に2極化し、前者には字幕が付くことで、英語ではなくそれぞれのローカル言語での教育が広がるだろうと見ていることは興味深い点であった。グローバル人材の教育とは、単に英語力を強化することではなく、深い教養をベースに異なる文化や歴史を理解する能力を持った人材を養成することであることを再確認した。

2014年11月14日

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